初診日講座 第3回|20歳前(年金制度未加入期間)の初診日証明
こんにちは。社会保険労務士の菅野です。
この連続講座では、障害年金の手続きにおいて最も重要と言っても過言ではない「初診日」について、様々な取り扱いや証明方法を全12回にわたって解説しています。
前回【第2回】では、初診日証明の基本的な進め方として、受診歴の整理から受診状況等証明書の取得までの流れをご紹介しました。
まだご覧になっていない方は、ぜひあわせてご確認ください。
第3回となる今回は、「20歳前の初診日証明」についてお話していきます。
実は、初診日が20歳前(原則として年金制度未加入期間)にあるケースは、制度上の取り扱いが少し特別で、
仮に初診日の証明が難しい状況であったとしても、他のケースと比べて初診日が柔軟に認められやすいという特徴があります。
この取り扱いを知らず、実は初診日が認められる可能性があるのに、
「受診状況等証明書が取れない」という理由だけで手続きができていない方も、現実には少なくありません。
ご自身やご家族の初診日が20歳未満の時点だったという方は、ぜひ今回の内容をご参考にしてください。
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まず前提:初診日の制度加入状況で受け取れる年金が変わる
初診日について考えるとき、最初に整理しておきたい制度上の前提があります。
障害年金では、「初診日時点でどの年金制度に加入していたか」によって、支給される年金の種類が変わります。
- 初診日が厚生年金の加入期間中 → 障害厚生年金
- 初診日が国民年金の加入期間中 → 障害基礎年金
そのうえで、今回のテーマである20歳前の期間は、原則として厚生年金に加入していない限り国民年金にも加入していない、
年金制度に加入していない「未加入期間」にあたります。
このような20歳前の未加入期間中に初診日がある場合、制度上は障害基礎年金の対象として取り扱われ、
そもそも保険料納付義務がないため、保険料納付要件も問われません。
したがって、今回の記事は、
「20歳前に初診日があり、初診日時点で厚生年金に加入していなかった方(障害基礎年金の対象者)」
に向けた内容となります。
20歳前初診は、初診日証明のハードルが低くなりやすい
20歳前の初診日証明は、実務上、通常ケースに比べて初診日を証明するハードルが低くなりやすい傾向があります。
この理由を理解するために、まずは障害認定日についておさらいしておきましょう。
障害認定日とは?(基本は初診日から1年6ヶ月)
障害認定日とは、障害年金において障害の状態を評価するための基準日です。
原則として、障害認定日は、
初診日から起算して1年6ヶ月を経過した日
とされています。
ただし、ここで覚えておく必要がある重要なポイントがあります。
初診日が「18歳6ヶ月より前」の場合、障害認定日は一律「20歳到達日」
障害基礎年金(20歳前障害)の場合、障害認定日は20歳前に設定されることはありません。
つまり、初診日が18歳6ヶ月より前にあるケースでは、
たとえそこから1年6ヶ月が経過していたとしても、その日が20歳未満であれば、障害認定日は20歳到達日となります。
この取り扱いがあるため、初診日が18歳6ヶ月より前であれば、初診日が厳密に「何年何月何日」かまで確定しなくても、
審査側としては「どうせ障害認定日は20歳になるので、日付はそこまで厳密に必要ない」という考え方ができ、
初診日について柔軟に認定されやすいということになります。
2番目以降の医療機関記録が「18歳6ヶ月以前」なら、初診日を認めてもらえる可能性がある
特に重要な実務ポイントは、
初診病院の証明ができなくても、2番目以降の医療機関の受診記録を活用できる
という点です。
もう少し具体的に言うと、2番目以降の医療機関の受診日が18歳6ヶ月以前であった場合、
本来の初診病院について全く証明できなくても、ご自身が申し立てた初診日を認めてもらえる可能性があります。
なぜなら、2番目以降の病院受診日が18歳6ヶ月以前である以上、当然、初診病院も18歳6ヶ月以前であることが明らかであり、
障害認定日はどうせ20歳になるため、障害年金の権利発生に影響がないからです。
そのため、初診日の証明に不安がある方でも、
- 2番目以降の医療機関の受診状況等証明書
- 領収書
- お薬手帳
- 母子手帳の記録
など、「18歳6ヶ月前の受診」を示す資料が揃っている場合は、諦めずに証明の可能性を探っていただければと思います。
初診日が「18歳6ヶ月以後〜20歳未満」の場合はどうなる?
ここまでの話を聞いて、
「では、初診日が18歳6ヶ月を過ぎたあと、20歳に到達するまでの間にある場合はどうなるのか?」
と疑問に思った方もいらっしゃるかもしれません。
このケースでは、障害認定日は原則どおり、初診日から1年6ヶ月経過した日となります。
つまり、障害認定日が20歳到達日よりも後になるため、制度上は「初診日がいつであったか」を通常どおり確認する必要があります。
この場合でも、保険料納付要件は不要ですが、障害認定日を決めるためには、
しっかりと初診日の証明が求められるという点は変わりません。
ただし「始期・終期の取扱」と組み合わせると、認められる可能性がある
――ここまでが制度上の建前なのですが、実務上はもう少し柔軟な運用がされることがあります。
それが、この講座の後半で詳しく解説する「障害年金の始期・終期の取扱」です。
この取り扱いを活用すると、少なくとも20歳前までに何らかの受診があったことを証明できれば、
ご自身が「ここが初診日です」と申し立てた日を初診日として認めてもらえる可能性があります。
始期・終期の取扱とは?(簡単な説明)
これは通達上の取り扱いで、初診日を特定できなくても、一定の期間内に初診日があることが確認できた場合に、
その期間のすべてで保険料納付要件を満たすことを条件として、申立てた初診日を初診日として認めることができるというものです。
20歳前の場合はそもそも保険料納付要件が不要であるため、
「生まれた日から2番目の医療機関受診日までの間のどこかに初診日がある」ことが確認できれば、
比較的幅広く初診日が認められる可能性がある、という実務的なポイントになります。
このあたりは専門的な取り扱いになりますので、講座の後半で具体例とあわせて詳しく解説していきます。
まとめ:20歳前初診は柔軟な判断がされやすいので、諦めないことが大切
今回は、20歳前の初診日証明について解説しました。
20歳前の初診日については、制度的にも実務的にも柔軟な判断がされやすい傾向があります。
受診状況等証明書が取れないなどの理由で困っている方も、ぜひ諦めずに検討を進めていただければと思います。
ただし、初診日の証明は思っている以上に難しいケースも多くあります。
初診病院が不明確であったり、複数の病院にかかっていて経過が曖昧な場合など、ご自身だけでは判断が難しいケースも少なくありません。
私はよく「すべての障害年金手続きに専門家が必要なわけではない」とお伝えしていますが、
初診日については話が別です。
初診日が証明できなかったことで、障害年金の権利そのものが失われてしまうことも現実としてありますので、
初診日に課題がある場合は、早めに専門家へ相談することも検討してみてください。
次回予告
次回【第4回】では、「5年以上前の医療機関資料を使った初診日証明」について解説していきます。
初診日の証明では「5年以上前の記録があるかどうか」が重要な分岐点になります。
次回もぜひ参考にしていただければと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。






