初診日講座 第4回|カルテ破棄・閉院でも初診日を認めてもらえる可能性がある取り扱い
こんにちは。社会保険労務士の菅野です。
障害年金における「初診日」は、受給できるかどうかを大きく左右する、非常に重要なポイントです。
この連続講座では、初診日についてのさまざまな取り扱いや証明方法を、全12回にわたって詳しく解説しています。
前回【第3回】では、「20歳前の初診日証明」について、制度上の特例的な扱いや、実務上の証明のしやすさについてお話しました。まだご覧になっていない方は、ぜひそちらも合わせてご確認ください。
第4回となる今回は、「5年以上前の医療機関資料を使った初診日証明」について解説します。
初診病院が閉院してしまっている、またはカルテがすでに破棄されてしまっている――。
このような理由で初診日が証明できず、手続きそのものが止まってしまっている方は少なくありません。
しかし実は、通達に基づき初診日を認めてもらえる可能性がある「非常に使える取り扱い」が存在します。
これを知っているだけで、初診日で悩んでいる方が救われるケースは多いと感じています。
ただし、初診日に課題がある場合は、制度理解だけでなく、資料の読み取りや客観的な判断が欠かせません。
状況に応じて、専門家への相談も選択肢として検討していただくと良いかと思います。
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「5年以上前の医療機関資料」を使う初診日証明とは?
今回のテーマである「5年以上前の医療機関資料を使った初診日証明」は、厚生労働省の通達に明確に記載されている取り扱いです。
具体的には、次のような内容です。
請求者が申立てた初診日が、医療機関が作成した資料(診断書・紹介状など)に記載されており、その資料が請求の5年以上前に作成されたものであれば、申立てた初診日を初診日として認めることができる。
つまり、初診病院のカルテが残っていない場合でも、別の医療機関の資料に初診日(または初診時期)が記載されていて、その資料が5年以上前に作成されていれば、初診日証明に使える可能性があるということです。
なぜ「5年以上前」の資料が有効なのか
では、なぜ「5年以上前」であることが重要なのでしょうか。
考え方としては、たとえその記載内容が本人の申し立てに基づくものだったとしても、
さすがに5年以上も前から、将来の障害年金請求を見越して虚偽の受診情報を伝えておくことは考えにくい
という点にあります。
したがって、5年以上前の医療機関資料に記載された初診時期については、真実性が高いと評価され、証拠として採用される余地が生まれるということです。
また、医療機関のカルテ保存義務が5年であることも踏まえ、制度上の線引きとして5年が採用されている側面もあります。
具体例:2番目の病院の記録で初診日が認められるケース
この取り扱いを活用すると、たとえば次のようなケースで初診日証明が可能になります。
例:初診病院のカルテが破棄されていたが、2番目の病院の受診状況等証明書に「○年○月頃から△△病院へ通院」と記載があり、その記録が請求時点から5年以上前に作成されていた。
この場合、初診病院の証明書が取れなくても、2番目の病院の資料に記載された初診時期が証拠として認められ、初診日が認められる可能性があります。
なお、こうした「他院記録に頼る証明」の場合、正確な年月日までは分からず、「○年○月頃」のような形でしか残っていないことがほとんどです。
この「日付が特定できない場合の取り扱い」については、今後の講座のテーマとして詳しく解説していく予定です。
使える資料は「受診状況等証明書」だけではありません
今回の取り扱いで使える資料は、受診状況等証明書に限られません。
ポイントは次の2つです。
- 医療機関が作成した資料であること
- その資料に初診時期(初診日)が記載されていること
- そして資料の作成時点が「請求時点から5年以上前」であること
対象となり得る資料には、例えば次のようなものがあります。
- 診断書の写し(過去に作成されたもの)
- 紹介状(診療情報提供書)の控え
- カルテのコピー(開示資料)
- 医療機関が作成した証明書類
「初診日が証明できない」と感じている方でも、過去に転院歴がある場合は、こうした資料が残っている可能性があります。
注意点①:資料は「請求時点から5年以上前」である必要があります
この取り扱いを使う上で、最も重要な注意点が、資料が請求時点から5年以上前に作成されたものである必要があるということです。
そして、ここでさらに重要なのが、
5年経過する前に一度でも請求手続きをしてしまうと、その時点を起点として「時間経過が止まる」
という点です。
例:あと少しで5年なのに、先に請求してしまうケース
たとえば、
- 記録の作成が「4年10ヶ月前」
- 「あと2ヶ月待てば5年になる」
という状況で焦って請求してしまうと、その請求時点が基準になります。
そして後から再請求しても、基準は「前回請求した時点」となるため、その資料は永遠に4年10ヶ月前の資料として扱われてしまう可能性があります。
だからこそ、この取り扱いを使う場合は、焦って出さないことが非常に大切です。
「急がば回れ」で、あと数ヶ月待てば5年を超えるという場合には、取り扱いを理解した上で慎重にタイミングを見極めて進める必要があります。
注意点②:転院歴が多い人ほど活用しやすい
これは皆さんが勘違いしやすいポイントです。
初診日証明で困っている方は、
「病歴が長くて病院もたくさん通っているから、初診日証明が絶望的」
と感じることが多いです。
しかし、専門家の視点ではむしろ逆で、
転院歴が多いほど、初診日を記録してくれている可能性のある医療機関が多い
という点で、ポジティブに捉えられることも少なくありません。
特に、転院先の診断書や紹介状に、
- 「○年○月頃より通院歴あり」
- 「以前○○病院で治療を受けていた」
などの記載があり、かつ資料作成時点が5年以上前であれば、今回の取り扱いを活用できるチャンスになります。
ですので、「病歴が長いからもう無理かも…」と諦めずに、手元に残っている医療機関資料を丁寧に確認してみてください。
まとめ:5年以上前の医療機関資料は初診日証明の強力な武器になる
今回は、「5年以上前の医療機関資料を使った初診日証明」について解説しました。
初診病院のカルテが残っていなくても、2番目以降の医療機関の記録や紹介状などが残っていれば、初診日が認められる可能性があります。
一方で、この取り扱いは、
- 「請求時点から5年以上前の資料」であること
- 請求のタイミングを誤ると取り扱いが使えなくなることがある
- 資料の読み取りや判断が複雑になりやすいこと
といった注意点もあります。
初診日が証明できなければ、障害年金の権利そのものが得られないケースもあります。
もし迷いがある場合や、資料の扱いが難しい場合には、早めに専門家へ相談することも検討してみてください。
次回予告
次回【第5回】では、「診察券などを活用した初診日証明」について解説していきます。
病院のカルテがなくても、診察券や領収書などの資料が残っているケースは多いです。
こうした資料をどのように初診日証明に活かしていくのか、次回もぜひ参考にしていただければと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。






