初診日講座 第5回|診察券などを活用した初診日証明
こんにちは。社会保険労務士の菅野です。
障害年金における「初診日」は、受給できるかどうかを大きく左右する非常に重要なポイントです。
この連続講座では、初診日についての様々な取り扱いや証明の方法を、全12回にわたって詳しく解説しています。
前回【第4回】では、「5年以上前の医療機関資料を使った初診日証明」について、厚生労働省の通達に基づく取り扱いや実際の活用方法について解説しました。
まだご覧になっていない方は、ぜひそちらもご確認ください。
第5回となる今回は、「診察券などを活用した初診日証明」についてお話しします。
初診日の証明は、医療機関の記録が失われていたり、廃院でそもそも取得できなかったりすると、それだけでハードルが一気に上がります。
ただし、そのような状況でも活用できる可能性のある資料はいくつかあります。その代表例のひとつが「診察券」です。
ただし、このテーマは「診察券があれば安心」という話ではありません。
診察券は単独で初診日を確定させる力は弱いものの、条件が揃えば有効な証拠になり得ます。
その考え方と注意点を、今回は整理して解説します。
YouTube動画(埋め込み)
診察券が初診日証明に使えるのは「初診日が明記されている場合」
今回のテーマは「診察券などを活用した初診日証明」ですが、診察券であれば何でも有効というわけではありません。
診察券が初診日の証拠として活用できるのは、基本的に「診察券に初診日が明記されている場合」です。
以前は、診察券に
- 「平成18年6月10日 初診」
- 「初診日:2006/06/10」
のように、初診日が印字されているケースが一定数存在していました。
特に、昔ながらの紙やラミネートされた診察券では、初診日が記載されていることがあります。
一方で、初診日の記載がない診察券は、基本的に初診日証明には役立ちません。
また、現在はカード型診察券が一般的になっており、初診日が印字されている診察券はほとんど見られなくなっています。
したがって、診察券で初診日を証明できる可能性そのものは高くない、という点は最初に押さえておく必要があります。
診察券があっても「それだけ」では初診日は認められない
仮に診察券に初診日の記載があったとしても、診察券だけで初診日を認めてもらうことはできません。
同じ性質を持つ資料としては、
- 初診時の領収書
- レセプト(診療報酬明細書)
などが挙げられます。
では、なぜ診察券や領収書、レセプトだけでは認められにくいのでしょうか。
理由はシンプルで、診察券に「平成18年6月10日 初診」と書いてあったとしても、
それが「一連の受診の中で最初の医療機関」だったかどうかが、診察券だけでは分からない
からです。
つまり、診察券に記載された「初診」が、その病院にとっての初診である可能性は高いとしても、
障害年金で必要とされる「初診日(=その傷病で最初に医師の診療を受けた日)」とは限りません。
ご本人としては「間違いなく最初の病院です」と確信していても、それを客観的に証明できなければ、審査側はそのまま認めることができません。
もしこれを無条件に認めてしまうと、「いったもん勝ち」になってしまい、不正が横行してしまう可能性もあります。
そのため審査では、主観ではなく客観的な証拠が求められます。
診察券が「有効な証拠」になるのは、他の記録と組み合わせたとき
では、診察券は全く使えないのかというと、そうではありません。
診察券などが有効になるのは、
「その病院が初診の病院であること」が、2番目以降の医療機関の記録から合理的に判断できるケース
です。
具体的には、例えば、2番目の病院の受診状況等証明書に、
「前医:○○病院に通院していた」
とだけ記載されているケースです。
このような場合、初診の病院は特定できているものの、初診時期(年月日)が全く分からず困ることがあります。
実務上、これは決して珍しいケースではありません。
このとき、初診日記載のある診察券や初診時の領収書、レセプトなどを併せて提出することで、
「客観的に見ても、確かにその病院が初診で、その日が初診日だよね」
という合理性を補強でき、初診日として認められる可能性が出てきます。
つまり、診察券は単独で完結する証拠ではなく、「複合的に初診日を証明するための素材(参考資料)」として活用するもの、という位置づけになります。
通達でも出てくる「その他の参考資料」に診察券は含まれます
初診日に関する通達を読んでいくと、「その他の参考資料」という言葉が頻繁に登場します。
この「その他の参考資料」には、今回ご紹介したような、
- 診察券
- 領収書
- レセプト
などが含まれます。
初診日証明の基本は受診状況等証明書ですが、証明書が取れない・証明が不十分といったケースでは、
「その他の参考資料」を組み合わせて、客観的合理性をつくっていくという考え方が重要になります。
病歴・就労状況等申立書との整合性も重要です
初診日を証明する際には、資料だけ揃えても十分とは限りません。
病歴・就労状況等申立書に記載した経過と、提出する資料との整合性が取れていることも非常に重要です。
申立書の経過と診察券等の資料が矛盾していると、
審査側としては「結局どれが正しいのか」が判断できず、初診日が認められにくくなります。
「資料があるから安心」と思わず、申立書も含めて、全体の整合性を意識して準備することがポイントです。
まとめ:診察券は「単独では弱いが、条件が揃えば強い補強材料になる」
今回は、「診察券などを活用した初診日証明」についてお話ししました。
診察券は、
- 初診日が明記されている場合に限り、初診日証明に活用できる可能性がある
- ただし、診察券単独では証明力が弱く、それだけでは認められにくい
- 2番目以降の医療機関記録などと組み合わせることで、合理性を補強できる
- 通達上の「その他の参考資料」として位置づけられる
- 病歴・就労状況等申立書との整合性も重要
という点を押さえておくことが大切です。
ただし、こうした判断は非常に複雑で、資料の読み取りや通達の理解も必要になります。
初診日が認められなければ、障害年金の権利そのものが得られなくなるケースもあります。
制度上の取り扱いが活用できそうかどうか迷った場合には、無理に自己判断をせず、専門家へ相談することも検討してみてください。
次回予告
次回【第6回】では、「健康診断における初診日の取扱い」について解説していきます。
健康診断の結果や所見が、初診日証明に影響するケースがあります。
次回もぜひ参考にしていただければと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。






