初診日講座 第7回|日付が不明でも初診日が認められる可能性がある
こんにちは。社会保険労務士の菅野です。
障害年金の手続きにおける初診日は、受給の可否を大きく左右する非常に重要なポイントです。
この連続講座では、そんな初診日についての様々な取り扱いや証明方法を全12回にわたって詳しく解説しています。
前回【第6回】では、「健康診断における初診日の取り扱い」について詳しく解説しました。まだご覧になっていない方は、ぜひそちらもご確認ください。
第7回となる今回は、「初診日が日付まで特定できない場合の取り扱い」について解説していきます。
初診日証明でお困りの方は、受診歴が長かったり、複数の医療機関を受診していたりするケースが多いです。
特に廃院やカルテ破棄で初診病院からの受診状況等証明書が取得できない場合、他の資料を手がかりに初診日を証明していくことになりますが、実務上は「何年何月頃」「何年頃」といった形でしか分からず、日付まで特定できないケースも少なくありません。
ただ、実は日付が特定できないからといって諦める必要はありません。
通達やQ&Aでは、初診日が「ある程度まで特定できる」場合の取り扱いが整理されています。
今回は、その具体的な考え方と注意点を分かりやすくまとめていきます。
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初診日が日付まで分からないケースは珍しくありません
障害年金における初診日は、原則として「傷病について初めて医療機関で診察を受けた日」とされています。
しかし、受診歴が長い方や、複数の医療機関を転々としている方の場合、当時の受診日を何年何月何日まで正確に特定できないことがよくあります。
そのようなケースを救済するために用意されているのが、今回ご紹介する取り扱いです。
①「年月」まで特定できる場合:その月の末日を初診日とする
厚生労働省の通達やQ&Aでは、初診日が「年月」までしか分からない場合の取り扱いとして、
「当該月の末日を初診日とする」
というルールが示されています。
例)「平成20年4月頃」としか分からない場合
たとえば、2番目の病院の受診状況等証明書に、
「平成20年4月頃から○○病院を受診」
としか書かれておらず、具体的な日付までは分からないケースでは、
この取り扱いに基づき「平成20年4月30日」を初診日として判断してもらえる可能性があります。
なぜ「日付」まで必要なのか:障害認定日を決めるため
「月まで分かれば十分では?」と思われるかもしれませんが、障害年金では、初診日をもとに障害認定日が決まります。
障害認定日は原則として初診日から1年6ヶ月後です。
したがって、日付が決まらないと、認定日も確定できず、どの時点の診断書を取得すべきかが定まりません。
特に、日付が曖昧なケースでは、遡及請求(認定日請求)となることが多いため、
この取り扱いを知らないと、診断書を取るべき日付を間違えてしまうこともありますので注意が必要です。
②「季節」しか分からない場合:季節ごとの末日を初診日とする
次に、「春頃」「夏頃」など、季節までしか特定できないケースについても取り扱いが設けられています。
季節のみが特定されている場合、初診日は次のように扱われます。
- 冬頃 → 2月末日
- 春頃 → 5月末日
- 夏頃 → 8月末日
- 秋頃 → 11月末日
たとえば「2016年夏頃に受診していた」場合は、2016年8月31日を初診日として判断してもらえる可能性があります。
③「年単位」しか分からない場合:「始期終期の取り扱い」で判断する
さらに、
- 「何年頃」
- 「何歳頃」
といった年単位でしか特定できないケースについても、通達やQ&Aで取り扱いが示されています。
ただし、Q&A上は、年単位の情報だけでは初診日を認めることはできないとされています。
ではどうするかというと、その場合は
一定期間に初診日があるものとして「始期終期の取り扱い」で判断する
とされています。
始期終期の取り扱いとは(概要)
「始期終期の取り扱い」は、簡単に言うと、
その期間中のどの日が初診日であっても保険料納付要件を満たすのであれば、初診日を認める
という考え方です。
この取り扱いについては、次回【第8回】で詳しく解説していきます。
このような取り扱いがあるため、実務上は年月日まで完全に特定できていなくても、初診日証明がなんとかなるケースがあるということになります。
注意点:この「アバウトな取り扱い」が使えないケースもある
ここまでお話した内容は非常に有用ですが、すべてのケースで無条件に使えるわけではありません。
特に注意すべきなのは、次のようなケースです。
① 期間中に保険料納付要件を満たさない日がある場合
たとえば、未納や納付遅れ、手続き漏れなどにより、期間中に保険料納付要件を満たさない日が含まれていると、
「月末」や「季節末」といった扱いができず、厳密な特定が必要になります。
② 厚生年金・国民年金が期間中に混在している場合
また、初診日は厚生年金加入期間中である必要があるにもかかわらず、対象期間中に国民年金期間が混在している場合も、
同様に厳密な特定が求められることがあります。
例)「平成25年3月頃」の記録があるが、途中で退職しているケース
たとえば、
- 資料上は「平成25年3月頃」としか分からない
- しかし「平成25年3月15日」に退職し、厚生年金から国民年金に切り替わっている
- さらに初診日が厚生年金期間中に必要
という場合は、初診日が3月15日以前であることを証明する資料を追加で提出する必要があり、難易度が大きく上がります。
このように、保険料や加入制度の変動があるケースでは、アバウトな取り扱いが使えないこともありますので注意が必要です。
まとめ|日付が特定できなくても、初診日は認められる可能性があります
今回は、「初診日が日付まで特定できない場合の取り扱い」について解説しました。
- 年月まで特定できる場合 → 当該月の末日
- 季節まで特定できる場合 → 季節末日
- 年単位しか分からない場合 → 始期終期の取り扱い
日付が分からないという理由だけで諦めてしまっている方も多いのですが、
こうした取り扱いを知ることで、手続きの道が開けるケースもあります。
ただし、制度上の取り扱いを正確に把握し、それを正しく活用するには、一定の専門知識や客観的な視点が必要です。
初診日の証明が難しい場合、判断に迷った場合には、できるだけ早めに専門家に相談することを強くおすすめします。
次回予告
次回【第8回】では、今回も触れた「始期終期の取り扱い」について詳しく解説していきます。
「何年頃」「何歳頃」など年単位でしか分からないケースにおいて、
どのような条件で初診日が認められるのかを具体的に整理してお伝えしますので、ぜひ次回もご覧ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。






