初診日講座 第8回|「この期間のどこかに初診日がある」ことを証明して初診日を認めてもらう方法
こんにちは。社会保険労務士の菅野です。
障害年金における「初診日」は、障害年金が受給できるかどうかを大きく左右する、非常に重要なポイントです。
この連続講座では、初診日についての様々な取り扱いや証明方法を、全12回にわたって詳しく解説しています。
前回【第7回】では、「初診日が日付まで特定できない場合の取り扱い」について解説しました。
日付が「○年○月」や「○年春頃」といったように曖昧な場合でも、一定のルールに従えば初診日が認められる可能性があること、そしてその注意点をお伝えしましたので、まだご覧になっていない方はぜひそちらもチェックしてみてください。
第8回となる今回は、初診日証明の中でも特に重要で、実務でも活躍することがある、「始期・終期の取り扱い」について解説します。
始期・終期の取り扱いは、初診日が正確に分からない場合でも、「ここからここまでの期間のどこかに初診日があったことは間違いない」ということを客観的な資料で証明できれば、初診日を認めてもらえる可能性がある運用です。
一方で、聞こえは簡単でも、実務上は要件や注意点が多く、正しく理解していないと活用できない取り扱いでもあります。
初診日の判断が難しいケースでは制度上の取り扱いを正確に理解し、客観的な視点で判断することが重要ですので、初診日に少しでも不安がある場合は早めに専門家へ相談することも検討してください。
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始期・終期の取り扱いとは?
始期・終期の取り扱いとは、一言でいうと次のような運用です。
「ある一定の期間のどこかに初診日があること」を客観的資料で証明できれば、その期間内の任意の日を初診日として認めてもらえる可能性がある
つまり、初診日そのものが「何年何月何日」と正確に分からない場合でも、
- 少なくとも「この時点では発症していない」または「この時点から発症している」ことが分かる(=始期)
- そして「この時点では必ず受診している」ことが分かる(=終期)
という2点を示せれば、その区間のどこかに初診日が存在することは合理的に推認できるため、申立てた日を初診日として認定してもらえる可能性がある、という考え方です。
具体例:健康診断結果+2番目の病院の受診状況等証明書で「期間」をつくる
始期・終期の取り扱いは、文章で読むと分かりづらいので、例を使って説明します。
例えば次のようなケースです。
- 内科系の疾患で「平成30年頃」に初診日がある
- 初診病院は廃院していて、初診日を証明できない
- 2番目の病院の受診状況等証明書は取得できており、その受診日は「令和1年11月30日」
- 毎年受けていた健康診断の結果が残っており、「平成29年3月15日」の健診までは異常なし
- 「平成30年3月5日」の健診で初めて異常値が出て、そこから病院受診につながっている
この場合、
- 平成29年3月15日(少なくともこの時点では異常所見なし=発症していない根拠)を「始期」
- 令和1年11月30日(必ず受診している根拠)を「終期」
として設定すると、
「平成29年3月15日から令和1年11月30日までの間に初診日があったことが合理的に推認できる」
ということになります。
このように、始期と終期を客観的資料で示し、その期間内の任意の日を初診日として申立てた場合、その申立てた日を初診日として認定してもらえる可能性があるというのが、この取り扱いです。
ポイント:始期は「発症していない根拠」または「発症の起点」を示す
始期・終期の取り扱いのポイントは、次の2点です。
- 始期:少なくともここまでは発症していない/またはここから発症しているという根拠を示す
- 終期:ここでは必ず受診しているという根拠を示す
このうち実務上ハードルが高いのは、圧倒的に「始期」です。
なぜなら、受診していることを証明することよりも、
「発病していないこと」や「ここから発病したこと」を証明するほうが難しいからです。
終期は、2番目以降の受診状況等証明書や診断書、その他受診していることが分かる資料があれば比較的容易に特定できますが、始期はそう簡単にはいきません。
注意点①:申立て期間の「すべての日」で保険料納付要件を満たす必要がある
始期・終期の取り扱いには、明確な条件があります。
それが、
申立てた期間のすべての日において、保険料納付要件を満たしている必要がある
という点です。
たとえ期間中のどこか1日でも、保険料納付要件を満たさない日が含まれていると、この取り扱いは使えません。
なぜなら、この取り扱いは
「期間中どこが初診日でも納付要件を満たしているなら、どこを初診日としても同じだから認めてあげよう」
という考え方で成り立っているためです。
もし期間中に納付要件を満たさない日が1日でもあれば、その日が初診日だった場合に障害年金の権利が発生しないことになるので、当然この取り扱いは認められません。
注意点②:制度混在(国民年金・厚生年金が混ざる)があると難易度が上がる
もう一つ重要な注意点が、制度混在です。
障害年金は初診日がどの年金制度に属するかによって、支給される障害年金の種類(障害基礎年金か障害厚生年金か)が決まります。
しかし、実際には、
- ずっと国民年金だけ
- 途切れなく厚生年金だけ
という方はむしろ少なく、国民年金と厚生年金が入り混じっている方が非常に多いです。
始期・終期の取り扱いを使いたい期間の中に、国民年金と厚生年金が混ざっていると、
その期間のどこを初診日とするかによって支給される年金の種類が変わってしまうため、単純に「どこでもいい」とはならなくなります。
厚生年金初診日として認めてもらいたい場合
初診日が厚生年金期間中であることを主張したい場合には、始期と終期を示す資料に加えて、
「厚生年金期間中に初診日であることが客観的に分かる資料」
を別途提出する必要があるため、証明のハードルが上がります。
そして、ここが難しいところですが、
それが提出できるなら、そもそも始期・終期の取り扱いに頼る必要がないというのが一般的な考え方でもあるため、実務上はこの要件がかなり厳しく作用します。
障害基礎年金(国民年金期間)として申立てる場合
一方で、国民年金期間など「障害基礎年金」での手続きになる場合は、厚生年金よりも制度上不利であるため、
始期と終期の証明ができていれば、それ以上の資料を求められずに認めてもらえる可能性があります。
実務では、厚生年金の初診日証明がどうしてもできない場合に、
「障害厚生年金は難しいが、始期・終期の取り扱いを使えば障害基礎年金なら認定を受けられる可能性がある」
という提案をして、結果として障害基礎年金を取得したケースも存在します。
ただし、このような提案は年金事務所の窓口ではなかなかされませんし、この取り扱いを知らない社労士事務所も一定数あります。
知っているかどうかで結果が分かれることもあるため、非常に重要な知識です。
始期の証明に使われることがある資料例
最後に、始期・終期の取り扱いを使ううえで、始期の証明に使われることがある資料の例を整理しておきます。
始期の資料として使われることがあるのは、例えば次のようなものです。
- 健康診断・人間ドックの結果
(請求傷病に関する異常所見がなく、発病していないことが確認できる) - 2番目以降の病院の受診状況等証明書など
(傷病の起因や、起因の発生時期が明らかとなる) - 医学的知見に基づいて、一定時期以前には発病していないことを示せる資料
ただし、これ以上「これを出せばOK」というように単純化することはできません。
始期・終期の取り扱いは極めてケースバイケースで、最終的には、審査する人が客観的に見て納得できる資料かどうかが重要になります。
まとめ|始期・終期の取り扱いは「だいたいこの辺」では通らない
始期・終期の取り扱いと聞くと、
「だいたいこの辺です」で初診日が通る
と思われがちですが、実際にはそうではありません。
客観的な裏付け資料が求められ、要件も厳しく、かなりテクニカルな証明方法です。
ポイントをおさらいすると、
- 「この期間に初診日がある」ことを客観的資料で示す必要がある
- 保険料納付要件は申立て期間の全日について満たす必要がある
- 制度混在があり厚生年金初診日を主張する場合には追加資料が必要となり、難易度が上がる
大変な証明方法ではありますが、この方法で救われる方がいるのも間違いありません。
初診日証明でお困りの方は、この取り扱いで解決できないかどうか、ぜひ検討してみてください。
ただし、繰り返しになりますが、制度上の取り扱いを正確に把握し、それを正しく活用するには一定の専門知識や客観的な視点が必要です。
初診日の証明が難しい場合、判断に迷う場合には、できるだけ早めに専門家へ相談することを強くおすすめします。
次回予告
次回【第9回】では、「保険料納付要件が完璧なら、障害基礎年金ならなんとかなる!」というテーマで解説していきます。
初診日がどうしても特定できない場合でも、条件次第では障害基礎年金として認定が得られる可能性があります。
次回もぜひ参考にしていただければと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。






