初診日講座 第9回|保険料納付要件が完璧なら、障害基礎年金ならなんとかなる!
こんにちは。社会保険労務士の菅野です。
障害年金における「初診日」は、障害年金が受給できるかどうかを大きく左右する非常に重要なポイントです。
この連続講座では、初診日についての様々な取り扱いや証明の方法を、全12回にわたって詳しく解説しています。
前回【第8回】では、「始期・終期の取り扱い」について解説しました。
具体的な日付までは分からないけれど、「この期間内には間違いなく初診日がある」と客観的に証明できる場合に、その中の任意の日を初診日として認めてもらえるという制度の運用をご紹介しましたので、まだご覧になっていない方はぜひそちらもチェックしてみてください。
第9回となる今回は、「保険料納付要件が完璧なら、障害基礎年金ならなんとかなる!」というテーマでお話しします。
タイトルだけ聞くと少し楽観的に感じるかもしれませんが、これは前回の「始期・終期の取り扱い」の延長上にある運用で、実は知らない人がとても多い“とっておき”の取り扱いです。
年金事務所で相談しても、社労士に相談しても「それは無理ですね」と言われてしまった。
でも、実は条件次第では認められる可能性がある――。
そんなケースを救うことができるのが、今回ご紹介する運用です。
特に、真面目に保険料の納付や免除・猶予の手続きをしてきた方ほど、この取り扱いで道が開ける可能性があります。
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結論:障害基礎年金なら、初診日の証明資料がゼロでも認定される可能性がある
まず結論からお伝えします。
障害基礎年金の手続きにおいて、20歳以降、初診日に至るまでのすべての日付で保険料納付要件を満たす場合、初診日を証明する資料が一切なくても初診日を認定してもらうことが可能です。
「え?初診日の資料が何もないのに?」と思われるかもしれませんが、これは制度上の“救済措置”に近い考え方で、通達に基づく正式な運用です。
ただし、誰でも使えるわけではなく、条件が非常に厳しいこと、そして「障害基礎年金に限る」という大前提があります。
この点は後ほど詳しく説明します。
「始期・終期の取り扱い」の発展版|今回は“期間すら証明できない”ケースが対象
前回の第8回でご紹介した「始期・終期の取り扱い」では、
- “ここからここまでの間に初診日があった”ということを示す「始期」
- “ここでは必ず受診している”という「終期」
を、資料をもとに証明する必要がありました。
しかし、今回ご紹介するのは、それよりもさらに難しい、
「期間すらも証明できない」=始期の証明が一切できないケース
が対象です。
つまり、
- 初診病院がどこだったかも覚えていない
- 受診時期も曖昧
- 診察券も領収書もない
- 2番目以降の病院にも、初診に関する記録が残っていない
という、「どう考えてもお手上げ」に見える状況です。
それでも、一定条件を満たす場合に限り、初診日が認定される余地がある。
それが今回の取り扱いです。
カギは「どこに初診日があっても、納付要件を満たしている」という状態
通常、障害基礎年金では、
初診日を特定したうえで、その日を基準に保険料納付要件を判定します。
つまり、初診日が分からないと、納付要件の判定もできず、審査側としては何も判断できません。
しかし逆に言えば、
「どの時点に初診日があっても、保険料納付要件をクリアできている状態」
であれば、どこが初診日であっても、制度上「権利がある」状態になります。
そしてこの考え方を、「始期・終期の取り扱い」に当てはめるとどうなるかというと、
始期を何らかの資料で証明できなくても、
始期を「出生日」にしてしまう
という発想が成り立ちます。
出生日であれば、当然それ以前は存在しませんので、始期として設定すること自体は合理的です。
したがって、
出生日を始期とし、出生日以後、終期(現在など)までの全期間で保険料納付要件を満たしているなら、障害基礎年金であれば、本人が申立てた初診日を認めてもらえる可能性がある
という結論になります。
具体例|初診の記憶が曖昧で何も残っていないケース
例えば、次のようなケースです。
「35歳くらいの頃に精神疾患で病院に通い始めたが、最初の病院の名前も場所も忘れてしまっていて、診察券も領収書も何も残っていない。
その後、40歳頃に通った病院では『前にも別の病院で治療していた』と伝えていたが、発症時期も受診時期も記録がなく、証明につながる情報を得られなかった。
それ以外にも証明できそうな資料は何も残っていない。」
このような場合、通常であれば「初診日が証明できないので無理」と判断されがちです。
しかし、もしこの方が、
- 20歳以降ずっと国民年金の保険料を納付している
- 支払えない時期があったとしても、免除・猶予の手続きを滞りなく行っている
など、出生日以後~現在までの全期間で保険料納付要件を完璧に満たしている状態であれば、
「生まれたときから現在までの間にどこかで初診日があったよね」という超広範囲の始期・終期を設定し、その中から本人が申し立てた日を初診日として認定してもらえる可能性がある
ということになります。
極端な例に見えるかもしれませんが、まじめに保険料納付や免除・猶予の手続きを行っている場合、証明のハードルがぐっと下がることがある――。
そのことを象徴するケースでもあります。
重要な注意点:この取り扱いが使えるのは「障害基礎年金」の場合だけ
ここが今回の最重要ポイントです。
この取り扱いが使えるのは、障害基礎年金の場合だけです。
なぜなら、初診日が厚生年金期間にある「障害厚生年金」を狙う場合、出生日を始期とするような広範囲の申立てをすると、必ず、
- 未加入期間
- 国民年金期間
- 厚生年金期間
が混在することになります。
そして制度混在の場合、厚生年金初診を主張するには、保険料納付要件だけでは足りず、
「厚生年金期間中に初診日があったことが客観的に分かる資料」
の提出が必要になります。
そもそもそれがないから今回のような話になっているわけですので、
この運用は障害厚生年金には使えず、障害基礎年金に限るということになります。
この点を誤解すると、窓口で門前払いになったり、適切な戦略を立てられなかったりする原因になりますので、必ず押さえておきましょう。
窓口では案内されないことが多い|知っているかどうかで結果が変わることもある
今回ご紹介している取り扱いは、通達に基づいた正式な運用ですが、
実務上、窓口で案内されることはほとんどありません。
理由は単純で、窓口担当者の多くは、ここまで応用的な通達の解釈まで把握していないからです。
担当者によっては、「それでは初診日が証明できませんので…」と門前払いされてしまうこともあります。
社労士事務所に相談しても同様に「無理ですね」と言われた結果、困り果ててご相談いただき、実際には普通に認定される――ということも珍しくありません。
だからこそ、この取り扱いを知っているかどうかが、障害年金を受け取れるかどうかを分ける分岐点になることがあります。
まとめ|「証明資料ゼロ」でも、真面目に納付してきた方には救済の余地がある
今回は、「保険料納付要件が完璧なら、障害基礎年金ならなんとかなる!」というテーマで、始期・終期の取り扱いの発展版ともいえる運用をご紹介しました。
本当に証明資料が何もない、記憶も曖昧――。
そんなケースでも、真面目に保険料の納付や免除・猶予の手続きをしてきた方であれば、希望が持てる可能性があります。
ただし、制度上の取り扱いを正確に把握し、それを正しく活用するには一定の専門知識や客観的な視点が必要です。
初診日の証明が難しい場合、判断に迷った場合には、できるだけ早めに専門家に相談することをおすすめします。
次回予告
次回【第10回】では、「第三者証明」をテーマに解説していきます。
「医療機関資料が全くない」といった状況で、第三者の証言がどのように扱われるのか、実務上の難しさや注意点も含めて整理していきますので、ぜひ次回もご覧ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。






