初診日講座 第11回|診断名が増えた・変わったとき、初診日はどう考える?
障害年金における「初診日」は、受給できるかどうかを大きく左右する非常に重要なポイントです。
この連続講座では、初診日についてのさまざまな取り扱いや証明の方法を、全12回にわたって詳しく解説しています。
前回【第10回】では、「第三者証明による初診日の証明」について、制度上の位置づけと実務上の限界を整理しました。
まだご覧になっていない方は、ぜひそちらもご確認ください。
さて第11回となる今回は、「発達障害や知的障害と、うつ病・統合失調症などの精神疾患が併発している場合の取り扱い」についてお話しします。
精神疾患の領域では、診断名が変更になったり、後から追加されたりすることが少なくありません。
そのため、ご相談の中でも「初診日をどこに置けばいいのか分からない」「診断名が変わったから初診日も変わるのでは?」といった誤解がとても多い分野でもあります。
今回は、まず押さえておくべき原則的な考え方を整理したうえで、厚生労働省の公式な取り扱いも紹介しながら、実務目線で分かりやすくまとめていきます。
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精神疾患の初診日|原則は「最も古い精神科受診日」
まず最初に、精神疾患による障害年金手続きにおける初診日の原則的な考え方を確認します。
障害年金において精神疾患に分類される病名は本当にたくさんあります。
- うつ病・双極性障害などの気分障害
- 統合失調症
- 適応障害・不安障害などの神経症
- 人格障害
- 発達障害
- 知的障害
- その他、多くの精神疾患
ここで大前提として覚えておいていただきたいのは、
精神疾患は、病名・診断名が変わっていても初診日がリセットされることは基本的にありません。
したがって、
精神疾患について受診した医療機関の中で、最も古い受診日を初診日と考える
のが原則です。
例えば、
- 適応障害 → うつ病 → 双極性障害 → 最後に発達障害の診断もついた
というケースでも、初診日は一番最初の「適応障害」での受診日になります。
また、途中に未受診期間があっても、基本的な考え方は変わりません。
「一連の精神疾患」として同一のものと捉え、最も古い受診日を初診日とします。
なお、診断名に知的障害がある場合には、初診日は原則として出生日になるという点も合わせて押さえておきましょう。
ここまでの原則を正しく理解できていれば、精神疾患の初診日の考え方で大きく間違えることはほぼありません。
厚生労働省の公式取扱い|同一疾病か別疾病かの整理
ここからは深掘りとして、厚生労働省から公式に示されている、
「知的障害や発達障害と、それ以外の精神疾患が併存している場合の取扱い」
について紹介します。
この案内では、いくつかの典型的なケースごとに、審査上、
- 同一疾病として扱うのか
- 別疾病として扱うのか
が整理されています。
基本は先ほどの原則どおり「同一疾病」と考えて、例外的に別疾病となるケースに該当する方だけ確認する、という理解で十分です。
ケース① うつ病・統合失調症で通院していたが、精査の結果「発達障害」と分かった
このケースは、多くの場合「診断名の変更」であり、新たな病気の発症ではないとされるため、
同一疾病として取り扱います。
つまり、最初にうつ病等で医療機関にかかった日が、その後に発達障害に診断名が変わっても一連の初診日となります。
ケース② もともと発達障害があり、後からうつ病や神経症を併発した
うつ症状等は「発達障害が背景となって発現した」と捉えるのが一般的であることから、
同一疾病として取り扱います。
この場合の初診日は、発達障害で最初に医療機関を受診した日となります。
ケース③ 知的障害と発達障害が併存する場合
知的障害と発達障害はいずれも20歳前に発症する性質があるため、原則として
同一疾病として取り扱います。
例えば、3級程度の知的障害であったものが、社会生活に適応できず発達障害の症状が顕著になった場合などは同一疾病と判断されます。
ただし、ここには重要な例外があります。
3級未満程度の知的障害がある方が、発達障害の症状によって医療機関受診をした場合は、別疾病として取り扱う
とされており、その場合は
- 出生日ではなく
- 発達障害での受診日を初診日として取り扱う
という整理になります。
この考え方は実務上かなり重要で、うまく成立すると、
知的障害があったとしても、厚生年金での手続きができる可能性が出る
ということになります。
この取り扱いは自分から申し立てないと考慮されにくいことも多いため、非常に専門的ではありますが、認められたときのメリットが大きく、該当しそうな方は検討の価値が高いポイントです。
ケース④ 知的障害に後からうつ病が加わった場合
このケースも一般的には「知的障害が背景にあって発症したうつ」と捉えるため、
同一疾病として判断され、初診日は知的障害の初診日=出生日
となります。
なお、公式取扱いには明記されていませんが、実務上はこのケースでも、先ほどの
知的障害が3級未満相当の場合に別疾病として成立する
という整理が可能な場合もあります。
ケース⑤ 発達障害や知的障害に、後から統合失調症が生じた場合
発達障害や知的障害に、後から統合失調症が生じることは「極めて少ない」とされ、原則として
別疾病として取り扱います。
ただし、発達障害や知的障害の症状として統合失調症様の病態が出ることもあり、
その場合は同一疾病として扱う
という整理になります。
実務上も、療育手帳を持っている方が統合失調症を別疾病として、障害厚生年金の認定を受けられたケースもあります。
申立書の記載方法なども重要になりますので、該当する場合は慎重に整理することが必要です。
診断名が多いと有利?という質問への答え
精神疾患の診断名が複数ある場合に、よく聞かれる質問があります。
「診断名が多いほど有利になりますか?」
結論としては、
基本的に有利になることはありません。
精神疾患の障害年金は、病名の数ではなく「総合評価」による総合認定です。
病名が対象外傷病である場合は別ですが、基本的には病名の数に固執する必要はなく、その方の状態が総合的に判断されます。
お気持ちは分かる部分ではありますが、病名に固執せず、必要な準備をしっかり進めていきましょう。
初診日の候補が複数あるとき|悩む必要はありません
実務上よくあるのが、先ほどのような「同一疾病か別疾病かが微妙なケース」で、初診日として複数候補が挙がるケースです。
こういうときにどうすればいいかというと、結論はシンプルです。
有利な方で手続きしましょう。
もし希望する初診日が認められなかった場合は、もう一方の候補に変更すれば良いだけです。
初診日は「こちら側が決めるもの」ではなく、最終的には審査で認められたものが初診日になります。
また、実務上は、両方の初診日を同時に手続きをすることも可能です。
「ダメだったら変更すればいい」という考え方で進められると、心理的にもかなり楽になりますし、意外と認められることもあります。
ただし、全く可能性がないものに対して無理に争うと審査が長引き、時間の無駄になることもあります。
ここは、事前にしっかり整理したうえで進めることが重要です。
まとめ|精神疾患の初診日は「基本は最も古い精神科受診日」、例外だけ押さえる
今回は、発達障害や知的障害と、うつ病・統合失調症などの精神疾患が併発している場合の取り扱いについて解説しました。
- 精神疾患は原則として同一疾病で考える(診断名変更で初診日はリセットされない)
- 初診日は最も古い精神疾患の受診日
- 知的障害が診断名にある場合は原則出生日
- 一部、公式取扱いで別疾病になる例外があり、成立すると厚生年金での手続きにつながることもある
- 初診日候補が複数ある場合は有利な方で申立て、ダメなら変更すればよい
精神疾患の初診日は、慣れていないと悩んでしまう分野です。
ぜひ今回の考え方を参考にしていただければと思います。
ただし、初診日に関する制度上の取り扱いを正確に把握し、それを正しく活用するには一定の専門知識や客観的な視点が必要です。
初診日の証明が難しい場合、判断に迷った場合には、できるだけ早めに専門家に相談することをおすすめします。
次回予告
次回、最後となる【第12回】では、「社会的治癒」について解説します。
実務上、非常に重要で、初診日の判断に大きく影響する考え方です。
初診日講座の締めくくりとして、ぜひ次回もご覧ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。






