今回は、障害年金の審査中に「初診日が認められないため追加資料を提出できるか確認してください」という返戻(へんれい)があったものの、追加資料を一切提出せず、初診日を変更することもなく、当初の主張どおりに障害厚生年金2級が認定された事例をご紹介します。
初診病院がカルテ廃棄で受診状況等証明書も取得できないという難しいケースでしたが、事前に提出できる資料を最大限揃えたうえで、手続きしていたため強気に返戻への対応を行いました。
どのような返戻(返礼)だったのか
事案の概要(ご相談者様の状況)
- 傷病名:統合失調症、発達障害
- 年齢:40代
- 性別:男性
- 就労状況:無職
- 請求:障害厚生年金(事後重症請求)
- 初診日:平成25年頃
初診病院が「カルテ廃棄」だった
本件では、初診病院がカルテ廃棄の取扱いとなっており、受診状況等証明書の取得ができない状況でした。
初診日についても「平成25年頃」という時期までは特定できていましたが、日付まで確定できる資料がなかったケースでした。
提出できた資料(初診日を裏付ける材料)
初診日を証明する資料として、以下の材料がありました。
- 初診病院の門前薬局の錠剤状況の証明(薬局作成)
- 次の病院のカルテに残っていた「平成25年頃にその病院を受診していた」という記録
ただし、薬局の情報は、それ単体では「その日が初診日である」と確定できる資料ではありません。
また、次の病院のカルテ情報は「平成25年頃」という記載にとどまり、正確な初診日を直接証明できるものではありませんでした。
初診日が重要な理由(厚生年金期間と国民年金期間の混在)
本件では、平成25年中に厚生年金期間と国民年金期間が混在していました。
仮に平成25年の全期間が厚生年金であれば、初診日が平成25年であることが確認できれば障害厚生年金として認定される取り扱いがあります。
しかし、実際には国民年金期間も含まれていたため、初診日が「厚生年金期間中」であることが極めて重要な論点になっていました。
提出資料から主張したポイント
提出できた資料は、主に以下の内容でした。
- 調剤薬局の残存記録から、その薬局に残っている調剤日が「何日であったか」
さらに、次の病院のカルテ情報から、平成25年頃にその病院を受診していたことが確認できました。
そのカルテ内容から、就職中に受診していたことが読み取れたため、少なくとも平成25年中の就労期間(=厚生年金期間)中の受診であることが証明できる可能性があると想定しました。
そして、
- 最も古く残っている調剤薬局の調剤記録
- 次の病院のカルテに残る「平成25年頃の受診」
- 年金記録上の厚生年金期間
の時期が一致していることから、当初申し立てた初診日が正しいものである旨を主張しました。
返戻(返礼)の内容
請求から約2か月半が経過したタイミングで、返戻(返礼)の書類が届きました。
内容は要旨として、次のようなものでした。
「現在提出されている資料からは、申し立てた初診日の確認ができないため、初診日が確認できる資料の提出が可能か改めて確認してください」
つまり、主張する初診日が認められないため、追加資料が提出できないか、という趣旨、つまり出せなければ初診日は認められませんという返戻でした。
どのような対応をしたのか
結論:追加資料は提出せず、初診日も変更しなかった
本件では、すでにできることはすべてやりきった後だったため、追加で提出できる資料はありませんでした。
そのため、返戻(返礼)に対しては、
- 「これ以上提出できる資料はない」ことを申し立てる
- 初診日の変更は行わない
- 当初の初診日のまま審査を進めていただくようお願いする
という対応を取りました。
この対応を取った理由
このような対応を取った理由は、そもそも障害厚生年金の初診日が認められなかった場合を想定して手続きを進めていたためです。
本件では、万が一、障害厚生年金が認められなかった場合に備えて、同時に障害基礎年金の請求も行っていました。
これは、障害年金の初診日の取り扱い上認められることがわかっていました。
つまり、障害厚生年金が認定されないこと自体は、事前に想定していた状況でやれることを全て行っていました。
初診日を変更してしまうリスク
返戻(返礼)の内容によっては、初診日を変更して審査を進めた方が良いように見える場合があります。
しかし、本件では、ここで請求方針を変更してしまうと、次のような問題が生じる可能性がありました。
- 障害厚生年金の却下決定が出なくなる
- 却下決定がなければ審査請求(不服申立て)を行うことができなくなる
障害厚生年金が認められない場合でも、最後まで審査をしてもらわなければ、却下通知は出ません。
そのため、本件では初診日を変更せず、当初の主張のまま審査を進めてもらう方針を取りました。
「変更せずに返す」ことで認められる可能性もある
また、これは頻繁に起きることではありませんが、返戻に対して何も変更せずそのまま返した場合でも、主張が認められることがあります。
その可能性も踏まえ、本件では「追加資料なし」「初診日変更なし」で返戻対応を行いました。
どのような結果だったのか
返戻(返礼)への対応から、さらに約1か月半後、
当初申し立てていた障害厚生年金の初診日が認められました。
そして、希望していたとおり、
- 障害厚生年金2級が認定
となりました。
なお、本件では当時の診断書を取得できなかったため、遡及請求は行わず、事後重症請求による認定となっています。
この事例から分かること(所感・解説)
返戻は「指示どおりに直す」だけではない
返戻が来ると、多くの方が
- 「何か追加で出さなければならない」
- 「初診日を変えないと通らない」
と考えてしまいがちです。
しかし、返戻の内容はあくまで「確認ができないため、追加資料が提出できるか」という趣旨であり、必ずしも初診日変更が正解とは限りません。
「強気な返戻対応」ができるかどうかは、全体設計で決まる
このケースのポイントは、返戻(返礼)に対して指示どおりに初診日を変更せずに進めた場合、結果として認められなければ「却下」となり、すべての認定がされない可能性があるという点です。
しかし今回は、滑り止めとして障害基礎年金の手続きも同時に行っていたため、強気に返戻対応を行うことができました。
ただし、今回のようなケースでの注意点は、ただ突き返すだけのような対応は絶対に行ってはいけません。対策もせずに結果としてだめだったら、ただ障害年金認められなかったという結果に終わる可能性は高いためです。
このように、返戻対応は「その場だけの対応」ではなく、最終的に何を狙うのか、認められなかった場合にどうするのかという全体設計によって、取れる選択肢が変わります。
教訓:返戻の内容がすべてではなく、「何を求めるか」と「完全な却下を防ぐ対策」が重要
返戻は、審査側の疑問点を示すものではありますが、返戻の内容がすべてではありません。
「何を主張したいのか」「最終的に何を求めているのか」によっては、時には強気な対応が必要になるケースもあります。
もちろんそれはできる全ての対策を取った上での対応であることは当然ということになりますので、安易に真似をせずに必要に応じて専門家の支援を受けるようにしましょう。







