今回は、障害年金の審査中にカルテ開示(診療録の写しの提出)を求める返戻(へんれい)が届いたものの、カルテ開示を行わず、主治医意見書や病歴の再構成などの対応によって、障害基礎年金2級が遡及(5年分)で認定された事例をご紹介します。
カルテ開示は、審査側が行う正当な確認手段であり、原則としては応じるべきものです。
しかし、近年はカルテ開示が増加傾向にあり、また、カルテの些細な記載をきっかけに不支給や等級引下げとなるケースも体感的に増えているため、カルテを提出すること自体が非常にシビアな局面になることがあります。
本件では、返戻が届いたタイミングでご相談・ご依頼いただいたことで、カルテ開示に頼らず審査側の疑問点を解消する方針を取り、結果として遡及認定につながった事例です。
どのような返戻だったのか
事案の概要(ご相談者様の状況)
- 傷病名:強迫性障害(発達障害)
- 年齢:40代
- 性別:男性
- 就労状況:無職
- 請求:障害基礎年金
- 結果:障害基礎年金2級(遡及認定・5年分)
返戻が出た経緯(ご本人が手続きをしていた)
本件は、もともとご本人がご自身で障害年金の請求手続きを行っていました。
しかし、請求手続きの途中で返戻が届き、カルテ開示の指示が出ました。
当時は、SNS等でもカルテ開示の増加が話題になっており、「このままでは不支給になるのではないか」という強い不安から、当事務所へご相談・ご依頼をいただきました。
返戻文書の内容(原文要旨)
返戻文書の内容は、以下のとおりでした。
「年金請求日における症状の経過や治療内容、日常生活能力などについて詳細に確認するため、令和○年○月○日から令和○年○月○日までのカルテの写しを提供してください。」
つまり、審査側は
- 症状の経過
- 治療内容
- 日常生活能力
について、提出済みの診断書や申立書だけでは判断が難しいとして、カルテの写しによる確認を求めてきたものと考えられます。
なぜカルテ開示が求められたのか(背景)
当事務所で提出済み資料を確認したところ、本件は当時の状況下ではカルテ開示が非常にシビアな問題であると判断しました。
通常、カルテを開示すること自体が直ちに問題になるわけではありません。
しかし、当時は体感的に、カルテの些細な記載を理由に
- 不支給
- 等級引下げ
となるケースが増えており、カルテを提出することでリスクが増える局面もあると考えられました。
診断書の病名が強迫性障害になっていた
さらに確認したところ、提出されていた診断書の病名が強迫性障害となっていました。
強迫性障害は、原則として障害年金の対象外傷病です。
この点が、審査側がカルテ開示を求めた大きな理由の一つであると考えられました。
既存障害欄には発達障害があるが、本文に具体的記載が少なかった
診断書には、既存障害欄に発達障害の記載がありましたが、診断書本文には発達障害に関する具体的な記載がほとんどありませんでした。
そのため審査側としては、
- 実際に何が認定対象の傷病なのか
- 状態がどの程度なのか
が把握しづらく、カルテで詳細確認する必要があると判断した可能性が高いと考えられます。
日常生活状況が診断書に十分反映されていない印象があった
また、提出されていた診断書の内容は、ご本人の実際の日常生活状況と比較すると、十分に反映されていない印象がありました。
このまま審査が進んでいた場合、認定としては非常に微妙なラインであったと考えられます。
どのような対応をしたのか
結論:カルテ開示は行わず、審査側の疑問点を別資料で解消する方針
本件では、カルテ内容を確認する前提ではありましたが、可能であればカルテを提出せずに審査側の疑問点を解消する方法を模索しました。
そして最終的に、
- カルテ開示は行わない
- 審査側の疑問点を、主治医意見書・病歴の再構成等で解消する
という方針で対応しました。
まず行ったのはカルテ開示が必要とされた理由の確認
まず、返戻を出した担当者に対して、
なぜカルテ開示が必要とされたのか
という返戻文書上に記載がされていない理由の確認を行いました。
実務上、担当者がある程度理由を教えてくれる場合があります。
その上で、
その疑問点を解消できる資料を提出すれば、カルテ開示は不要になるか
という事前調整を行いました。
窓口で明確に不要とは言われませんが、実際には資料が揃えばそれで審査を進めるという取り扱いになることが多いためです。
主治医意見書を質問表形式で作成してもらった
本件では、主治医による意見書を、質問表形式で作成してもらう方法で対応しました。
質問表では、審査側が確認したいと思われる
- 症状の経過
- 治療内容
- 日常生活能力
を、診断書よりも具体的に読み取れるよう整理し、回答していただく形式を取りました。
発達障害の状態を具体的に書面で示した
強迫性障害であっても、うつ病や発達障害などが併存している場合には、認定対象となる取り扱いがあります。
今回は、病名自体は記載されているものの、状態が十分に読み取れなかったため、質問表の中で発達障害の具体的な状況について詳しく回答してもらいました。
病歴・就労状況等申立書を全面的に作り直した
さらに、本件では病歴・就労状況等申立書についても、
- 事実と提出済みのものと相違がない範囲で
- 内容を整理し直し
- 読み手が理解しやすい形に再構成する
という方針で、全面的に作り直しを行いました。
事後重症請求から、遡及請求への請求替えを行った
この方は、もともとご自身で事後重症請求を行っていました。
しかし調査したところ、障害認定日頃にも現在と同じ医療機関を受診していたことが分かりました。
ご本人は窓口で遡及請求ができないか何度も相談したものの、できないと言われ続け、諦めていたとのことでした。
当事務所としては、窓口でのその説明は明確に誤りであると判断し、現在の医療機関に相談し、障害認定日時点の診断書を作成してもらいました。
その結果、返戻への対応と同時に、事後重症請求から認定日請求への請求替えを行い、チャレンジすることができました。
どのような結果だったのか
返戻に対してカルテ開示を行わず、
- 主治医意見書(質問表形式)
- 病歴・就労状況等申立書の再構成
- 遡及請求への請求替え
などの対応を行った結果、
- 障害基礎年金2級が遡及して認定(5年分)
となりました。
時系列(請求から決定まで)
- 1月:ご本人が障害年金請求を実施
- 3月:返戻(カルテ開示の指示)が到着
- 5月:当事務所で資料を揃えて提出(返戻対応+請求替え)
- 7月:決定(障害基礎年金2級の遡及認定)
書類を揃えるのに約2か月を要し、その後の審査にも約2か月かかったため、審査期間は長期化しました。
この事例から分かること(所感・解説)
カルテ開示は必ず不利ではないが、慎重な判断が必要
カルテ開示は、審査側が行う正当な権限であり、原則としては応じるべきものです。
ただし、ケースによっては、カルテを提出しなくても審査側が判断できるだけの資料を整えることで、審査を進めることが可能な場合もあります。
この判断は非常に難しく、専門家の力量が問われる部分だといえます。
カルテ開示を避けることが目的ではなく、疑問点を解消することが目的
本件の本質は、カルテ開示を拒否することではありません。
審査側が求めているのは、
- 症状の経過
- 治療内容
- 日常生活能力
の詳細確認であり、これを別資料で補えるのであれば、カルテ開示に頼らず審査が進むことがあります。
病名の読み取りと記載不足が、返戻の背景になっていた可能性
本件では、診断書の病名が強迫性障害となっており、発達障害の記載が弱かった点がありました。
そのため審査側は、
- 認定対象傷病が何か
- 状態がどの程度か
を把握する目的で、カルテ開示を求めた可能性が高いと考えられます。
返戻のタイミングで専門家に依頼したことが、結果として大きく作用した
もともとの状態だけを見れば、何も対応せずに審査が進んでいた場合、認定は非常に微妙なラインだったと考えられます。
しかし、返戻があったタイミングで専門家に相談・依頼をいただいたことで、状態を適切に補足し、正しい情報を伝えることができた結果、遡及認定につながったと考えられます。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 返戻でカルテ開示を求められたら、必ず提出しなければいけませんか?
A. 原則としては、審査側の確認として正当なものですので、応じるべきものです。
ただし、ケースによっては、カルテを提出しなくても審査側が判断できるだけの資料を整えることで、審査を進めることが可能な場合もあります。
Q2. カルテを提出しないと、不支給になりますか?
A. 必ず不支給になるわけではありません。
審査側が求めている疑問点(症状の経過・治療内容・日常生活能力など)を、主治医意見書や補足資料で解消できれば、カルテ提出なしで審査が進むことがあります。
Q3. 審査側は、なぜカルテ開示を求めるのですか?
A. 多くの場合、提出済みの診断書や申立書だけでは判断が難しいためです。
特に、日常生活や就労の支障の状況が提出書類から読み取りづらい場合、カルテで詳細確認する目的で返戻が出ることがあります。
また、一度不支給になった後短期間で再度の手続きを行うと高い確率でカルテ開示となります。
Q4. 診断書の病名が強迫性障害でも障害年金は認定されますか?
A. 強迫性障害単独では、原則として障害年金の対象外傷病です。
ただし、うつ病や発達障害などが併存しており、その状態が認定基準上評価される場合は、認定対象となることがあります。
Q5. カルテ開示の代わりに、どのような資料が有効ですか?
A. 主治医意見書(質問票形式)が有効な場合があります。
審査側が確認したい論点(症状の経過・治療内容・日常生活能力)を、医師の視点で具体的に説明できる資料を整えることが重要です。
ただし、この質問票の作成は非常に高い専門性を有するものですので、専門家へのご相談をおすすめいたします。
Q6. 返戻が来たタイミングからでも、遡及請求に切り替えることはできますか?
A. 状況によっては可能です。
本件のように、障害認定日頃にも同じ医療機関を受診しており、認定日時点の診断書が取得できる場合は、返戻対応と同時に請求替えを検討できるケースがあります。
ただし、すべてのケースで可能とは限らないため、慎重な確認が必要です。







