内科系疾患|心疾患
心疾患の認定基準
弁疾患・心筋疾患・不整脈など6区分別に解説
心不全・心筋症・心筋梗塞・不整脈・大動脈解離・先天性心疾患などの心臓や血管の病気は、障害年金の対象になる可能性があります。認定基準は6つの疾患区分ごとに定められ、異常検査所見(A〜I)・臨床所見・一般状態区分の組み合わせで等級が判定されます。ペースメーカー等の装着がなくても対象になり得ます。このページでは、公式の認定基準を区分ごとに整理し、申請のポイントを障害年金を専門に扱う社会保険労務士が解説します。
障害年金の等級と制度の基本
心疾患による障害は、呼吸困難・心悸亢進(動悸)・尿量減少・夜間多尿・チアノーゼ・浮腫等の臨床症状、X線・心電図等の検査成績、一般状態、治療及び病状の経過などにより総合的に認定されます。認定の時期以後、少なくとも1年以上の療養を必要とするものであることが前提です。ここでいう心疾患とは心臓だけでなく血管を含む循環器疾患を指し(血圧は第17節で別に扱います)、肺血栓塞栓症・肺動脈性肺高血圧症も心疾患による障害として認定されます。
認定基準では、心疾患を①弁疾患 ②心筋疾患 ③虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)④難治性不整脈 ⑤大動脈疾患 ⑥先天性心疾患に区分し、それぞれに基準を定めています(このほか⑦重症心不全=心臓移植・人工心臓等)。等級認定の核心は、あらゆる心疾患の終末像である慢性心不全の状態の評価です。
心疾患の等級(共通の考え方)
| 1級 |
長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの |
| 2級 |
日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの |
| 3級 |
労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度のもの(障害厚生年金のみ) |
共通の判定材料|臨床所見・異常検査所見・一般状態区分
心疾患の各等級は、疾患区分ごとに「臨床所見の数」「異常検査所見(A〜I)の数」「一般状態区分(ア〜オ)」の組み合わせで判定されます。まずこの3つの判定材料を押さえましょう。
① 臨床所見(心不全の症状)
自覚症状として胸痛・動悸・呼吸困難・失神など、他覚所見として浮腫(むくみ)・チアノーゼなどがあります。このほか、咳・痰、全身倦怠感、尿量減少、夜間多尿、頚静脈怒張なども心不全の病状をあらわす所見です。診断書に記載された所見の数が、等級判定の要件(「5つ以上」「2つ以上」等)に直結します。
② 異常検査所見(A〜I)
異常検査所見(A〜I)
| 区分 |
異常検査所見 |
| A |
安静時の心電図において、0.2mV以上のSTの低下もしくは0.5mV以上の深い陰性T波(aVR誘導を除く)の所見のあるもの |
| B |
負荷心電図(6Mets未満相当)等で明らかな心筋虚血所見があるもの |
| C |
胸部X線上で心胸郭係数60%以上又は明らかな肺静脈性うっ血所見や間質性肺水腫のあるもの |
| D |
心エコー図で中等度以上の左室肥大と心拡大、弁膜症、収縮能の低下、拡張能の制限、先天性異常のあるもの |
| E |
心電図で、重症な頻脈性又は徐脈性不整脈所見のあるもの |
| F |
左室駆出率(EF)40%以下のもの |
| G |
BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)が200pg/ml相当を超えるもの |
| H |
重症冠動脈狭窄病変で左主幹部に50%以上の狭窄、あるいは、3本の主要冠動脈に75%以上の狭窄を認めるもの(冠動脈血行再建が完了している場合を除く) |
| I |
心電図で陳旧性心筋梗塞所見があり、かつ、今日まで狭心症状を有するもの |
(注)原則として、異常検査所見があるもの全てについて、それに該当する心電図等の検査データを提出(添付)することとされています。BNPが常に100pg/ml以上はNYHA心機能分類Ⅱ度以上、200pg/ml以上は心不全の進行と判断されます。
③ 一般状態区分表
一般状態区分表
| 区分 |
一般状態 |
| ア |
無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの |
| イ |
軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの(例:軽い家事、事務など) |
| ウ |
歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの |
| エ |
身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの |
| オ |
身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの |
(参考)身体活動能力の目安:ア=6Mets以上/イ=4〜6Mets未満/ウ=3〜4Mets未満/エ=2〜3Mets未満/オ=2Mets未満。Metsは安静時の酸素摂取量を1とした活動時の倍率です。
◆①|弁疾患
心臓弁膜症(大動脈弁狭窄症・僧帽弁閉鎖不全症など)が対象です。人工弁を装着した場合は原則3級で、術後もなお症状・所見が残る場合は2級の可能性があります。
弁疾患の等級(例示)
| 1級 |
病状(障害)が重篤で安静時においても、心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
| 2級 |
①人工弁を装着術後、6か月以上経過しているが、なお病状をあらわす臨床所見が5つ以上、かつ、異常検査所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
②異常検査所見のA・B・C・D・E・Gのうち2つ以上の所見、かつ、病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
| 3級 |
①人工弁を装着したもの
②異常検査所見のA・B・C・D・E・Gのうち1つ以上の所見、かつ、病状をあらわす臨床所見が2つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
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複数の人工弁置換術を受けている場合でも、原則3級相当とされています。また、抗凝固薬使用による出血傾向は、重度のものを除き認定の対象とはされません。人工弁を装着してもなお臨床所見5つ以上+異常検査所見1つ以上+区分ウ/エに該当すれば、2級の可能性があります。
◆②|心筋疾患
拡張型心筋症・肥大型心筋症・心アミロイドーシスなどが対象です。左室駆出率(EF値)が重要な指標になります。
心筋疾患の等級(例示)
| 1級 |
病状(障害)が重篤で安静時においても、心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
| 2級 |
①異常検査所見のF(EF40%以下)に加えて、病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
②異常検査所見のA・B・C・D・E・Gのうち2つ以上の所見及び心不全の病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
| 3級 |
①EF値が50%以下を示し、病状をあらわす臨床所見が2つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
②異常検査所見のA・B・C・D・E・Gのうち1つ以上の所見及び心不全の病状をあらわす臨床所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
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肥大型心筋症はEF値が参考にならないことが多いとされています。心室の収縮は保たれたまま拡張機能障害が病態の基本となるため、臨床所見・心電図・胸部X線・心エコー所見なども参考に総合的に判断されます。
◆③|虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)
心筋梗塞・狭心症が対象です。冠動脈疾患とは、主要冠動脈に少なくとも1か所の有意狭窄をもつ、あるいは冠攣縮が証明されたものをいい、冠動脈造影が行われていなくても、心電図・心エコー・核医学検査等で明らかに冠動脈疾患と考えられるものを含みます。
虚血性心疾患の等級(例示)
| 1級 |
病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全あるいは狭心症状を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
| 2級 |
異常検査所見が2つ以上、かつ、軽労作で心不全あるいは狭心症などの症状をあらわし、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
| 3級 |
異常検査所見が1つ以上、かつ、心不全あるいは狭心症などの症状が1つ以上あるもので、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
◆④|難治性不整脈
難治性不整脈とは、放置すると心不全や突然死を引き起こす危険性の高い不整脈で、適切な治療を受けているにもかかわらず改善しないものをいいます。房室ブロック・洞不全症候群などでペースメーカー・ICDを装着した場合は原則3級です。
難治性不整脈の等級(例示)
| 1級 |
病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
| 2級 |
①異常検査所見のE(重症な頻脈性又は徐脈性不整脈所見)があり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
②異常検査所見のA・B・C・D・F・Gのうち2つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
| 3級 |
①ペースメーカー、ICD(植込み型除細動器)を装着したもの
②異常検査所見のA・B・C・D・F・Gのうち1つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
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心房細動は、それのみでは認定の対象になりません。加齢とともに増える不整脈のためですが、心不全を合併したり、ペースメーカーの装着を要する場合は認定の対象になります。
◆⑤|大動脈疾患
胸部大動脈解離(Stanford分類A型:上行大動脈に解離あり/B型:上行大動脈に及ばない)や胸部大動脈瘤が対象です。大動脈疾患は特殊な例を除いて心不全を呈さないため、一般的には3級(障害厚生年金のみ)の認定となります。
大動脈疾患の等級(例示)
| 3級 |
①胸部大動脈解離(Stanford分類A型・B型)や胸部大動脈瘤により、人工血管を挿入し、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
②胸部大動脈解離や胸部大動脈瘤に、難治性の高血圧を合併したもの |
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人工血管にはステントグラフトも含まれます(胸部大動脈瘤には胸腹部大動脈瘤も含む)。「難治性高血圧」とは、生活習慣の修正を行ったうえで適切な降圧薬3剤以上を適切な用量で継続投与しても、なお収縮期血圧140mmHg以上又は拡張期血圧90mmHg以上のものをいいます。一般的には1・2級に該当しませんが、周辺臓器への圧迫症状などの合併症や手術の後遺症によっては、上位等級に認定されることがあります。なお、足の血管など胸部・腹部以外のステントは、この基準の対象外です。
◆⑥|先天性心疾患
心室中隔欠損症・ファロー四徴症・単心室症などの先天性心疾患が対象です。Eisenmenger(アイゼンメンジャー)化(手術不可能な逆流状況の発生)や、肺体血流比・肺動脈圧などの数値基準が定められています。
先天性心疾患の等級(例示)
| 1級 |
病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
| 2級 |
①異常検査所見が2つ以上及び病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
②Eisenmenger化(手術不可能な逆流状況が発生)を起こしているもので、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
| 3級 |
①異常検査所見のC・D・Eのうち1つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
②肺体血流比1.5以上の左右短絡、平均肺動脈収縮期圧50mmHg以上のもので、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
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先天性心疾患の初診日には特有の考え方があります。生まれつきの疾患でも、幼少期は無症状で経過し、成人後に症状が出て受診した場合は、その受診日が初診日と認められることがあります(厚生年金加入中なら障害厚生年金の対象になり得ます)。経過の整理が重要ですので、専門家にご相談ください。
◆⑦|重症心不全・医療機器を装着した場合
医療機器と等級
| 1級 |
心臓移植を受けたもの/人工心臓を装着したもの |
| 2級 |
CRT(心臓再同期医療機器)・CRT-D(除細動器機能付き心臓再同期医療機器)を装着したもの |
| 3級 |
ペースメーカー・ICD(植込み型除細動器)・人工弁を装着したもの |
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装着した日が障害認定日になる特例があります。ペースメーカー・ICD・人工弁を装着した場合、障害の程度を認定すべき日はそれらを装着した日(初診日から起算して1年6月を超える場合を除く)です。1年6か月を待たずに申請できるため、装着後は早めの手続きが有利です。ただし、心臓移植・人工心臓・CRT・CRT-Dは術後1〜2年程度経過観察したうえで症状が安定しているときは、臨床症状・検査成績・一般状態区分表を勘案して障害等級を再認定するとされています。
認定の方法・申請のポイント
機器を装着したら「早めの申請」が鉄則
装着直後は症状・所見が残っていることが多く、認定日特例により早期の申請が可能です。時間が経って症状が安定すると、装着していても等級が認められにくくなる傾向があります。装着後できるだけ早く手続きすることをおすすめします。なお、ご自身の機器がペースメーカーかCRT・CRT-Dかで等級(3級か2級か)が変わります。機器の正式名称を必ず確認しましょう。
更新(障害状態確認届)に注意
心疾患の障害年金は有期認定が基本で、数年ごとに更新があります。機器装着後に症状が安定した場合など、更新時に等級が下がる・支給停止になることがあります。初回申請時から、検査結果・臨床所見・日常生活への支障を診断書に正確に記載してもらうことが、継続受給の観点でも重要です。
機器を装着していなくても対象になり得ます
心不全・心筋症・虚血性心疾患などでは、機器がなくても「異常検査所見の数」+「臨床所見の数」+「一般状態区分」の組み合わせで等級に該当し得ます。自覚的なつらさだけでなく、EF値・BNP値・心電図所見などの客観的な検査データが認定の鍵になります。直近の検査結果を整理して臨みましょう。
健康診断の指摘と初診日
健康診断で心電図異常や心雑音を指摘され、精密検査のために受診した場合、その受診日が初診日となるのが原則です。指摘後しばらく放置していたケースでは経過の整理が必要になります。当時の健診結果票が残っていると、初診日の証明に役立つことがあります。
診断書のポイント
心疾患は「循環器疾患の障害用の診断書」を使用します。
装着した医療機器の正式名称(ペースメーカー/ICD/CRT/CRT-D/人工弁)と装着日が正確に記載されているか。
EF値・BNP値・心電図・胸部X線・心エコーなどの検査成績が記載され、異常検査所見に該当する検査データが添付されているか(原則として提出が必要です)。
臨床所見(動悸・呼吸困難・浮腫・倦怠感など)が漏れなく記載されているか(所見の「数」が等級要件に直結します)。
一般状態区分(ア〜オ)が実際の生活・就労の状態と合っているか。
よくあるご質問
Qペースメーカーを入れました。何級になりますか?
Aペースメーカー・ICD・人工弁の装着は原則3級です。CRT・CRT-D(心臓再同期医療機器)は2級、心臓移植・人工心臓は1級とされています。機器の種類で等級が変わるため、正式名称の確認が重要です。心不全の程度によってはさらに上位に認定されることもあります。
Qいつから申請できますか?
Aペースメーカー・ICD・人工弁は、装着した日が障害認定日となる特例があります(初診日から1年6月を超える場合を除く)。1年6か月を待たずに申請できるため、装着後は早めの手続きをおすすめします。
Q機器は入れていませんが、心不全がひどいです。対象になりますか?
A対象になり得ます。EF値40%以下・BNP200pg/ml超・重症不整脈などの異常検査所見(A〜I)の数、臨床所見の数、一般状態区分の組み合わせで等級が判定されます。客観的な検査データが鍵になるため、直近の検査結果を整理して診断書に反映してもらいましょう。
Q更新で支給停止になることはありますか?
Aあります。特にCRT等は術後1〜2年経過観察のうえ症状が安定していると再認定するとされており、症状が改善した場合などは等級が下がる・支給停止になることがあります。初回申請時から検査結果と生活への支障を正確に記載してもらうことが大切です。
Q心房細動と言われています。対象になりますか?
A心房細動のみでは認定の対象になりませんが、心不全を合併した場合や、ペースメーカーの装着を要する場合は対象になります。
Q大動脈解離で人工血管(ステントグラフト)を入れました。
A胸部大動脈解離・胸部大動脈瘤により人工血管(ステントグラフト含む)を挿入し、労働に制限がある場合は3級に該当し得ます。3級は障害厚生年金のみの等級です。合併症や手術の後遺症によっては上位等級となることもあります。
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出典:日本年金機構「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第11節 心疾患による障害。本ページは公式基準の全文にもとづく解説です。実際の等級は診断書等をもとに日本年金機構の審査により判定されます。