双極性感情障害
障害の状態
- 食事の準備・後片付けが一人でできず、栄養バランスの偏りから体重が発症前より10キロ以上増加
- 入浴時に頭から体まで一度に洗うことができず、日を分けて洗う状態が続いている
- 対人交流は家族内に限られ、感情のコントロールが難しく、近隣とのトラブルが生じたこともある
- 注意力・集中力の低下により、服薬の管理を誤ってしまうことがある
- 気分の落ち込みが強い時期には希死念慮を伴うこともあり、見守りや助言を必要とする
相談までの経緯
ご相談者様は、幼少期に家庭内で不安定な養育環境の中で育った影響もあり、以前から生きづらさを感じていました。第一子の出産後、育児の悩みや不眠、無気力感などの症状が強まり、心療内科や精神科を受診しましたが、医師とのコミュニケーションがうまくいかず、いずれも数回の通院で途切れてしまいました。その後しばらく医療機関を受診しない時期が続きましたが、体調は回復せず、家事や育児をこなすだけで精一杯の状態が続いていました。
平成11年(1999年)末に現在まで続く医療機関で本格的な治療を開始し、双極性感情障害の診断のもとで通院・投薬治療を継続することになりました。その後も気分の波は大きく、興奮して自身を傷つけかねない状態になったことをきっかけに入院となったこともありました。症状が比較的落ち着いた時期にはパート勤務にも挑戦しましたが、対人関係や体調不良を理由に長続きせず、退職と療養を繰り返してきました。令和4年には、長年関係に悩んできたご家族との同居生活をめぐるトラブルをきっかけに体調が大きく悪化し、それまで続けていた仕事も退職。以後は通院の頻度も増え、日常生活の多くをご家族の援助に頼らざるを得ない状態が続いていました。
このような状況の中、ご本人様は経済的な不安から障害年金の受給を検討されましたが、発症当初に受診した医療機関の名称や所在地がはっきりしないため、初診日を客観的な資料で証明することが難しいという大きな課題を抱えていました。ご自身やご家族だけでは手続きを進めることが難しいと感じ、専門的なサポートを求めて当事務所にご相談くださいました。
対 応
初回のヒアリングでは、発症からこれまでの通院歴、就労歴、家族関係、日常生活の状況について詳しくお伺いしました。最大の課題は、発症初期に受診した医療機関の情報が乏しく、初診日を直接証明する資料が得られないことでした。病歴・就労状況等申立書やご本人の記憶をもとに当時の受診状況を丁寧に整理しましたが、受診状況等証明書の取得には至りませんでした。
そこで当事務所では、初診日の認定に一定の幅を持たせる行政上の取扱いを踏まえ、ご本人様の記憶する初診日にもとづき障害認定日にさかのぼって請求する「主位的請求」と、その主張が認められなかった場合に備えて別の初診日を前提とする「予備的請求(事後重症請求)」を、あわせて同時に提出する方針を取りました。診断書についても、障害認定日相当の時期の状態と、現在(請求時点)の状態の両方を主治医に作成していただき、いずれの請求にも対応できるよう準備しました。
提出後、主位的請求については初診日を認めることができないとして却下となったため、審査請求を行い、初診日の認定に関する行政上の取扱いに基づいて改めて主張しましたが、結果的に審査請求も棄却となりました。一方で、あらかじめ提出していた予備的請求(事後重症請求)については現在の状態をもとに審査が行われ、障害基礎年金2級としての受給が決定しました。
初診日の証明という大きな壁がある事案でしたが、一つの請求方法にこだわらず複数の請求を並行して準備しておいたことで、結果的に受給という形でご本人様の生活を支えることができました。初診日の証明が難しいケースこそ、請求方針の選択が重要であることを改めて実感した事例です。
双極性感情障害に関するポイント
初診日の証明が難しい場合の取扱い
初診日を直接証明する受診状況等証明書等が取得できない場合でも、参考資料により初診日が一定の期間内にあると確認され、その期間中いずれの時点でも保険料納付要件を満たしているときは、一定の条件のもとで請求者が申し立てた初診日が認められる場合があるとされています。ただし、この取扱いが認められるかどうかは提出資料の内容によって判断が分かれるため、今回のケースのように主張が認められないこともあります。
主位的請求・予備的請求という二段構えの戦略
初診日の主張に不確実性がある場合、その主張を前提とする請求(主位的請求)が認められなかったときに備えて、別の初診日を前提とする請求(予備的請求)をあらかじめ同時に提出しておく方法があります。主位的請求が却下されても、予備的請求により受給の可能性を残すことができるため、初診日の証明に課題がある事案では有効な選択肢の一つとなります。今回のケースでも、この戦略により最終的な受給につながりました。
双極性感情障害の認定における留意点
双極性感情障害は、うつ状態と躁(軽躁)状態を繰り返すことが特徴で、症状の波によって日常生活能力が大きく変動しやすい傷病です。診断書は原則として現症時点の状態をもとに作成されるため、症状が比較的落ち着いている時期に請求すると、実際の生活の困難さが診断書に反映されにくいことがあります。今回のケースでも、症状の経過を丁寧に整理したうえで診断書作成のタイミングを検討しました。
関連動画
初診日の証明でお悩みの方は、初診日の基本的な考え方を解説したこちらの動画もあわせてご覧ください。今回のケースのように、初診日を直接証明する資料が見つからない場合の考え方を知っておくことが大切です。
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