強迫性障害
障害の状態
- 鞄の中や鍵、電気、ガスなどの確認行為が頻回で、重度の強迫症状がある
- 銀行で通帳やカードを使うと1時間ほど確認を繰り返し、その日は通所もできなくなる
- 気分の落ち込みや意欲の低下が続き、入浴はシャワーのみ、洗髪は2日に1回が精一杯
- 在宅時は終日部屋着で、同じ服を1週間ほど着続け、掃除機がけは月1回程度
- 家族以外との交流はほぼなく、緊急時はパニックになり家族に連絡して指示を仰ぐ
相談までの経緯
ご相談者様は、10代半ばの頃、同居のご家族が騒ぐたびに腹痛を起こすようになり、内科を受診しましたが症状は改善しませんでした。精神的なものではないかと考え、ご家族と相談のうえ心療内科を受診したところ、強迫性障害と診断され、薬物療法と精神療法による治療が始まりました。
その後も症状は悪化し、布団に入る前に体を拭き、布団から一歩出るたびに拭き直す、家族が布団に触れるとその部分を拭くといった行動が現れました。やがて家中の鍵をすべて確認する行動が加わり、財布やバッグ、通帳などの確認も繰り返すようになります。通院の都合から別の精神科病院にも通うようになり、そちらでは強迫性障害とうつ病と診断されました。
この頃、パートとして働き始め、社会保険にも加入されましたが、次第に出勤したくない気持ちが強まり、死にたい気持ちが現れて出勤途中に危険な運転をしてしまうこともあったため、就労の継続は困難と判断して退職されました。その後も転院しながら月1回の通院と服薬を続け、精神障害者保健福祉手帳(3級)も取得されています。生活環境の変化に伴う転居で通院が難しくなったことから、転居先に近い病院へ転院し、以後はそちらで通院を続けています。
転院後に就職された職場では上司との関係がうまくいかず数ヶ月ほどで退職し、続いて数年間パートとして働きましたが、強迫症状のために勤務に支障が出るようになり退職されました。一般就労は難しいと考え、その後はA型就労継続支援事業所に通所し、1日4時間・週5日ほど、配慮のもとで軽作業を行っていました。
ご相談時は、症状が強く落ち着かなくなると次の通院日を待たずに受診することもあり、医師からは確認行為について「納得いくまで確認するように」との指示を受けていました。無気力感や倦怠感、気分の落ち込みも強く、落ち着かなくなると自分を叩くなどの自傷行為に及ぶこともあり、体調や精神状態の波が大きく、日常生活全般を家族の支えに頼った生活でした。
最初のご相談は公式LINEでした。「文章でなら詳しく伝えられるが、話すとなると上手く話せず、主治医にも症状を十分に伝えられていない」という悩みと、年金用の診断書を主治医にどう依頼すればよいかというご相談でした。強迫性障害は神経症圏の傷病名で認定のハードルが高いため、診断書にうつ症状などの病態がどう記載されるかが重要になること、日常生活の状況が十分に診断書へ反映されなければ認定の可能性は高くないことを率直にお伝えし、主治医への確認ポイントをご案内しました。主治医からは「うつ病とは書けないが、うつ症状があるとは記載できる」との返答があり、その後しばらく間が空き、最初のご相談から約半年後に、ご本人様とご家族が面談をご希望され、ご依頼をいただきました。
対 応
面談では、ご本人様とご家族から現在の生活状況を詳しくお聞きしました。初診が20歳前であることから、障害基礎年金(20歳前傷病)での請求になると整理し、年金記録に問題がないことを確認したうえで、初診の医療機関に受診状況等証明書を依頼しました。受診から約20年が経過していましたが、当時の診療録に基づく証明書を取得でき、初診の時期を確認することができました。請求方法は、ご本人様の受診歴の記憶が曖昧であったことや現在の症状の重さを踏まえ、現在の状態をもとに請求する事後重症請求の方針としました。
ご本人様は症状を医師にうまく伝えられないとのことでしたので、日常生活の7つの場面(食事、清潔保持、金銭管理と買物、通院と服薬、対人関係、安全保持と危機対応、社会性)について入力フォームでご回答いただき、病歴も時期ごとに区切ってお聞きしました。そこで把握した内容を、診断書に添付する日常生活状況の資料と、病歴・就労状況等申立書にまとめ、診断書の依頼時に主治医へお渡しいただきました。
完成した診断書は、病名が強迫性障害のみの記載でした。認定基準上、神経症は原則として認定の対象とならず、気分(感情)障害などの精神病の病態を示すものは対象になるとされているため、このままでは審査の入口で不利になるおそれがあると判断しました。そこで、主治医が気分障害の病態を示していると考えていることを踏まえ、その病態と診断コードを診断書の備考欄に記載していただくよう文書でお願いし、追記後の診断書で請求書を提出しました。
請求後、日本年金機構から、備考欄に記載された病態を確認するためとして、カルテの写しの提出を求める返戻がありました。当事務所から機構へ確認と相談を行い、カルテ開示に代えて、主治医の意見書(質問票)を追加提出する方法で対応できることを確認しました。質問票は、機構が確認したい該当する精神病態とその時期、処方内容に沿って作成し、主治医から抑うつ気分があること、その出現時期、現在の処方についてご回答をいただきました。これを返戻書類とともに再提出しています。
その結果、請求から約3か月半で障害基礎年金2級の認定となりました。診断書では、日常生活能力の程度が「身のまわりのことも、多くの援助が必要」とされており、日常生活の具体的な状況が医師に伝わっていたことも、認定につながったと考えています。事後重症請求のため遡及はありませんが、年額約82万円の受給が始まりました。神経症圏の傷病名であっても、病態が診断書に明確に反映され、日常生活の実情が正確に伝わるよう備えることの大切さを改めて感じた事例でした。
強迫性障害に関するポイント
神経症圏の傷病名は「病態」の記載が重要です
障害年金の認定基準では、神経症は、症状が長期間続き一見重症に見えても、原則として認定の対象とならないとされています。ただし、臨床症状から判断して精神病の病態(気分(感情)障害など)を示している場合は、認定の対象となります。診断書の病名だけでなく、どのような病態・症状があるかが具体的に記載されているかが重要です。今回のケースでも、うつ症状の病態を診断書に記載していただくことが、大きな課題でした。
初診日が20歳前の場合は障害基礎年金の対象です
初診日が20歳より前にある傷病(20歳前傷病)は、初診日の時点で年金制度に加入していなくても障害基礎年金の対象となり、保険料の納付要件は問われません(ただし、本人の所得による支給制限があります)。今回のケースでも初診が20歳前でしたので、障害基礎年金での請求となりました。
事後重症請求は請求した翌月分から支給されます
事後重症請求は、現在の障害の状態が認定基準に該当することを理由に請求する方法で、年金は請求した月の翌月分から支給されます。障害認定日にさかのぼって支給される遡及はありません。今回のケースも事後重症請求であったため、遡及額は発生していません。
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