進行乳がん(骨転移・リンパ節転移)
障害の状態
- ステージⅣの進行乳がんで、骨やリンパ節への転移があり、化学療法などの薬物治療を長期にわたり継続している
- 薬の副作用による手足のしびれが強く、包丁を持てないなど家事全般に支障があり、字を書くなどの細かい作業も困難
- 歩行時は足先のしびれ感が強く転倒のおそれがあるため杖(多脚杖)を使用し、握力は右8.3kg・左9.8kg
- 手術後のリンパ浮腫が著明で、時に家族の介助が必要な状態(一般状態区分は「ウ」)
- 通院は月平均約10回で、副作用による倦怠感のため治療後の数日間は何もできない状態が続く
相談までの経緯
ご相談者様は、長年にわたり厚生年金に加入して働いておられました。ある時、股関節が急に強く痛み、歩けないほどの状態になったため医療機関を受診されましたが、腰痛との診断で湿布薬と漢方薬を処方され、その後は通院を続けませんでした。
しかし痛みは続き、再び歩けないほどになったため整形外科を受診しました。整形外科的な異常はないとされ、電気治療を受けるにとどまりました。その後も痛み止めを服用しながら生活を続けていましたが、症状は悪化し、痛みのために仕事を続けることができなくなって退職されました。やがて寝返りも打てなくなり、かかりつけの内科を受診されました。
内科でも痛み止めや湿布の処方、電気治療が行われましたが改善せず、主治医からMRI検査を勧められました。検査の結果、圧迫骨折が判明しましたが、骨折の仕方が不自然だったため、PET検査を受けることになり、そこで乳がんが見つかりました。すぐに乳腺外科を紹介されて受診し、右乳房に大きな硬い腫瘤があり、リンパ節や全身の骨にも転移のあるステージⅣと診断されました。
その後は約1年にわたる化学療法を行い、入院して乳房の切除手術とリンパ節郭清を受けられました。術後もホルモン療法と化学療法を続け、化学療法は「週1回を3週続けて1週休む」サイクルで、毎週のように通院されています。副作用による倦怠感が強く、治療後の数日間は何もできない日が続くほか、手足のしびれやむくみ、味覚の変化も続いていました。腰の痛みと足のしびれから一人で立ったり歩いたりすることが難しく、常に杖を使い、生活全般を家族に支えてもらう状況でした。
年金相談の窓口で障害年金という制度を知り、書類を受け取ったものの、病歴・就労状況等申立書を下書きする段階で、通院や入院が多くどこにどう書いてよいか分からなくなってしまいました。さらに指のしびれと痛みで、書いたり入力したりする作業も進みませんでした。ご家族とも相談し、公式LINEでご連絡をいただき、当事務所に申請の代行をご依頼いただきました。
対 応
お電話でお話を伺ったところ、受診した医療機関が多く、経過が複雑でした。年金記録に問題がないことを確認したうえで、悪性新生物のための「血液・造血器・その他の障害用」の診断書を中心に、手足のしびれや歩行の状態を客観的な数値で示すため、肢体の障害用の診断書も併用する方針としました。肢体の診断書については、主治医が乳腺外科であることから、可動域や筋力などの測定を理学療法士に行っていただいたうえで作成していただいています。
今回の最大の争点は初診日でした。当初の腰痛・股関節痛は、その後に判明した骨転移によるものと考えられることから、最初に腰痛で受診した時点を初診日として整理し、厚生年金に加入していた時期の初診日として請求しました。あわせて、障害認定日(初診日から1年6か月を経過した日)の時点でも、手術後の入院中で、右腕の動かしづらさ、手足のしびれ、著明なリンパ浮腫、歩行困難があり、日常生活に相当の支障があったことから、認定日請求(遡及)の方針といたしました。認定日頃と現在の2通の診断書を準備し、「無職で働ける状態にない」「生活全般に家族の支援が必要」といったご本人様の状況を申立書にも反映しています。
請求から約2か月後、審査側から返戻があり、初診日は後から受診した内科の受診日と判断されました。この場合、初診日が国民年金の加入期間となるため、障害基礎年金への請求替えを検討するよう案内がありました。あわせて、主治医への照会と診断書の検査項目の追記も求められました。初診日の変更はご本人様にとって不利益が大きく、これまでの経過からも納得できないとのことでしたので、主治医に質問票をお送りし、「当初の腰痛等はがんの影響によるものと考えられるか」「がんは診断時点で少なくともどの程度の期間経過していたと考えられるか」について、医学的なご意見をお願いしました。
主治医からは、診断時にすでに全身の骨に転移が認められたことから、当初の腰痛は骨転移によるものと考えるのが妥当であること、がんは数年にわたり経過していたと考えられることをご回答いただきました。審査側からの照会に対しては、認定日頃は病状に応じた看護や定期的な医療が必要な状態、現在は時に介助が必要な状態であり、手足のしびれは身の回りの日常生活動作に制限を生じる程度であることを、主治医が整理してくださいました。これらの医師意見書と診断書の追記を添えて、返戻から約1か月後に再提出しました。
請求から約半年ほどで、障害厚生年金3級の決定を受けました。初診日は当初の申立てどおりと認められ、障害認定日にさかのぼって受給でき、遡及額は約161万円となりました。ご本人様からは、給付を受けられることで安心して治療に専念できるとのお言葉をいただきました。がんは、症状が現れた時点と診断された時点が離れることが少なくありません。当初の症状とがんとの関係を、医師の意見で丁寧に裏づけることの大切さを改めて感じた事例です。
進行乳がん(悪性新生物)に関するポイント
がんの障害年金は、病状・治療の影響・日常生活能力で判断されます
悪性新生物(がん)の障害年金は、がんの種類や転移の有無だけで決まるものではなく、病状、手術や化学療法などの治療による全身状態への影響、副作用や後遺症、日常生活能力や就労への影響などを総合して判断されるとされています。診断書は「血液・造血器・その他の障害用」が基本となり、手足のしびれや歩行困難が強い場合には、肢体の診断書を併用することもあります。今回のケースでも、治療の副作用による手足のしびれや歩行の状態を、肢体の診断書も用いて具体的にお伝えしました。
がんの診断前に別の症状で受診していた場合の初診日
がんでは、診断される前に、腰痛などの別の症状で医療機関を受診しているケースがあります。その症状が、のちに判明したがんによるものと医学的に因果関係が認められる場合、その最初の受診日が初診日と判断されることがあります。ただし、症状とがんとの関係を示す医師の意見書など、客観的な資料が重要になります。今回のケースでは、主治医の意見書をもとに、最初に腰痛で受診した時点を初診日として認めていただきました。
認定日請求と遡及請求
障害認定日(原則として初診日から1年6か月を経過した日)の時点で障害等級に該当する状態であれば、請求が遅れた場合でも、認定日にさかのぼって年金を受け取れることがあります(時効により、さかのぼって受け取れる期間には限りがあります)。この場合、認定日頃の診断書と現在の診断書の2通が必要になるのが一般的です。今回のケースでも、この方法により遡及分を受給することができました。
関連動画
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