僧帽弁閉鎖不全症・慢性心不全
障害の状態
- 僧帽弁置換術(人工弁)と三尖弁輪縫縮術を受け、現在も月1回程度の通院と投薬、経過観察を継続
- 心エコー検査で左室駆出率(EF)38.1%、心電図に深い陰性T波(0.3mV)の所見
- 診断書では自覚症状欄はいずれも「無」、心機能分類(NYHA)はI度、一般状態区分は「軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできる」
- 日常生活能力・労働能力は「身の回りのことは可能で、重労働は困難であるが事務系の仕事は可能」
- 申立書では、動くと息切れが強く、激しい運動はできず、階段の昇り降りにも苦労している状況を記載
相談までの経緯
ご相談者様は、新卒で入社した会社で長年会社員として勤務されていました。それまで心臓の病気を指摘されたことはなく、心臓に関する既往もありませんでした。
異変は、頻繁な嘔吐から始まりました。症状が一向に改善しないため、近隣の脳神経外科の病院を受診されましたが、発熱外来で薬を処方されて一旦帰宅し、服薬しても改善がみられず、2日後に再び受診されています。頭部の検査では異常がなく、しばらく様子を見ていたものの、その後も発熱やめまいが続き、最初の受診から約1か月が経った頃には疲労感や動悸、息切れも現れるようになりました。採血の結果、心臓への負担を示す血液検査の数値(BNP)が高かったことから、感染性心内膜炎の疑いがあるとして、総合病院の循環器内科を紹介されました。
紹介先の病院では、心エコー検査で僧帽弁の弁尖が逸脱し、重度の逆流(閉鎖不全)がみられ、感染性心内膜炎とうっ血性心不全の精査・加療のため、その日のうちに入院となりました。薬物療法で心不全の症状はいったん落ち着いたものの、入院中に不整脈が出現して救命処置が必要となる場面もあり、心不全と感染のコントロールが難しくなったため、大学病院へ転院。最初の受診から約1か月半後に、僧帽弁置換術(人工弁)と三尖弁輪縫縮術を受けられました。その後入院・治療を経て、その後は元の病院の循環器内科に戻り、月に1回の通院で投薬や血液検査などの経過観察を続けておられます。
手術後は、身体障害者手帳(心臓機能障害)の交付も受けられました。職場にも復帰されましたが、手術後は会社都合で退職となり、相談の時点では無職の状態でした。動くと息切れがして激しい運動はできず、階段の昇り降りにも苦労されるなか、「働きたいが、適切な職場が見つからない」というお気持ちを抱えておられました。
人工弁を入れた状態で障害年金を受け取れるのかどうかを知りたいと、ご本人様から当事務所へお電話でご相談をいただきました。
対 応
初回のヒアリングでは、人工弁の手術に至った経緯、現在の通院状況、退職後の生活の状況などを詳しくお伺いしました。あわせて年金記録を確認したところ、初診日の時点で厚生年金に加入されていたため、障害厚生年金での請求となることを確認しました。
請求方法については、人工弁を装着した場合は、装着した日が障害認定日となる特例があることから、手術を受けた日を障害認定日と考え、認定日請求(遡及請求)の方針といたしました。手術後も人工弁を装着した状態が続いていることから、認定日にさかのぼって認められる可能性があると判断したためです。請求が認定日から1年以上経過していたため、請求が遅れた理由を記した申立書も作成しました。
診断書は、現在の主治医である循環器内科の医師にお願いしました。次回の受診時にご本人様から主治医へ診断書作成のお願いをお伝えいただき、その後に当事務所から病院へ依頼する流れとしています。診断書には、人工弁を装着する手術を受けたこと、心エコー検査の結果、日常生活能力や労働能力の状況などが記載されました。病歴・就労状況等申立書は、手術に至るまでの経過、術後の通院状況、現在の息切れの状況などが審査側に伝わるよう、診断書の内容と整合させながら当事務所で作成しました。
請求書の提出から約1か月後、審査側から返戻(書類の差し戻し)がありました。診断書に、申立てている初診日よりも前に他の病院を受診した経過が記載されており、初診日の確認が必要というものでした。実際の最初の受診は、心臓の専門ではない近隣の脳神経外科の病院で、診断書に記載された初診日は、紹介先の総合病院を初めて受診した日でした。そこで、最初に受診した病院に受診状況等証明書の作成をお願いし、症状が出てから紹介に至るまでの経過を記載していただいたうえで、申立書にも最初の受診以降の受診状況と日常生活の状況を追記して病歴を整え、再提出しました。
その結果、請求の受付から約3か月で、障害厚生年金3級に認定され、年金額は約61万円、認定日にさかのぼる遡及額として約123万円が決定しました。診断書上は自覚症状が目立たない記載であっても、人工弁の装着という客観的な事実と、初診日・認定日を丁寧に整理して請求することの大切さを改めて感じた事例です。
僧帽弁閉鎖不全症に関するポイント
人工弁を装着した場合の認定と、認定日の特例
障害認定基準では、心臓弁膜症などで人工弁を装着した場合、原則として3級に該当するものとされています(症状が重い場合は、さらに上位の等級となる可能性もあります)。3級は障害厚生年金にのみある等級のため、初診日に厚生年金に加入していることが前提となります。また、人工弁を装着した場合は、初診日から1年6か月を待たず、装着した日が障害認定日とされています。今回のケースでも、この考え方に基づいて手術を受けた日を障害認定日とし、遡及請求を行いました。
初診日の確認と受診状況等証明書
初診日は、障害の原因となった傷病について初めて医師の診察を受けた日をいいます。最初に受診した医療機関が専門外の診療科であったり、のちに診断名が変わったりすることもありますが、診断書に記載された初診日と最初の受診が異なる場合は、最初の医療機関の受診状況等証明書による確認が求められることがあります。今回のケースでも、返戻を受けて最初に受診した病院の証明書を追加で提出しました。
身体障害者手帳の等級と障害年金の等級は別
身体障害者手帳と障害年金は、根拠となる制度も認定の基準も異なるため、等級が必ずしも一致するわけではありません。今回のご相談者様は心臓機能障害で身体障害者手帳1級の交付を受けていましたが、障害年金は3級の認定となりました。手帳をお持ちの方も、障害年金については別の基準で検討する必要があります。
関連動画
遡及請求の条件や注意点についてより詳しく知りたい方は、こちらの動画もあわせてご覧ください。
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