軽度知的障害
障害の状態
- 全検査IQは66(WAIS-IV)。処理速度や知覚推理が低く、見たものの理解や作業に時間を要する
- 自閉スペクトラム症の特性があり、言葉を字義どおりに受け取り、相手の気持ちをくみ取ることが難しく、対人関係の構築が困難
- 調理は温める程度で、洗濯・掃除・片付けも自力では難しく、自宅は足の踏み場もない状態
- 金銭管理や公的な手続き、通院時の受け答えが難しく、ご家族の付き添いや細かな助言が必要
- 就労継続支援B型事業所に週5日・1日4時間ほど通所し、見守りや支援のもとで作業
相談までの経緯
ご相談者様は、出生時の異常や健診での指摘はありませんでしたが、幼少期からこだわりが強く、ミニカーの並べ方をずらされると激しく泣きわめいたり、世界中の国旗の国名を丸暗記したりする一方で、保育園では集団行動ができず、園から抜け出してしまうこともありました。小学校には普通学級に入学したものの、登校中に行方不明になる問題行動が見られたため支援学級へ移り、先生の話が理解できず成績は低く、周囲とのコミュニケーションも取りづらく、クラスに馴染めませんでした。進学した中学校には支援学級がなく、普通学級で過ごしました。
高校でも成績は振るわず、見通しを立てて計画的に行動することや、複数のことを同時に行うことが苦手で、相手の言葉を理解できずオウム返しをすることも多かったそうです。計算が苦手で、買い物では小銭の出し方が分からず常に千円札で支払い、頼まれた買い物の内容もすぐ忘れてメモが必要でした。卒業後に就職した最初の職場は、工具の名前が覚えられず先輩とのトラブルもあって数か月で退職となりましたが、その後は、簡単な反復作業の職場で約5年、製造業や建設関連の職場でもそれぞれ数年にわたり勤務しました。適応の難しさはあったものの、業務が難しくなかったことや周囲の理解があったことで続けられ、日常生活全般は同居のご両親が支えてくださっていました。
しかし最後の勤務先で、眼の病気による視野の低下から仕事を続けることが難しくなって退職し、眼の障害については、ご自身で手続きをして障害年金(2級)を受給されていました。そのころご両親が相次いで他界され、一人では日常生活全般をこなすことが困難に。別居のご家族に頼りながらグループホームへの入居を検討する中、福祉の相談員から療育手帳の取得を勧められて精神科のクリニックを受診し、軽度知的障害と自閉スペクトラム症の診断を受けました。その後、就労継続支援B型事業所への通所を始めましたが、片付けができず、近くに住むご家族の支援で何とか生活している状況でした。受診から3か月ほど経った頃、知的障害での障害年金の請求について、ご家族とともに当事務所へご相談くださいました。
対 応
初回のご相談では、眼の障害ですでに障害年金(2級)を受給していること、知的障害はこれまで受診歴がなく、診断を受けたのも最近であることを確認し、①初診日の考え方、②請求方法の選択、③受給中の眼の障害年金との関係、の3点を課題として整理しました。
幼少期から特性が見られることから、発病日・初診日を出生日とする「20歳前傷病」として整理できると判断しました。この場合、初診日を証明する受診状況等証明書は不要で、保険料の納付要件も問われません。請求方法は、障害認定日が20歳到達時点となるものの、当時は通院しておらずその頃の診断書が作成できないため、現在の診断書で請求する事後重症請求の方針としました。また、眼の障害年金をすでに受給していたため、請求が認められれば眼の障害と併合して等級が判断されることを見据えて進めました。
資料の準備では、日常生活の状況を項目ごとにご本人様と別居のご家族から詳しく伺い、書面にまとめました。ご本人様は自分をよく見せようとする傾向があり、診察の場で困りごとを十分に伝えにくいため、ご家族の視点を含む資料が必要と考えたためです。病歴は時期ごとに小分けに質問し、幼少期の通知表の写しも拝見して病歴・就労状況等申立書を作成し、診断書の依頼時に主治医へお渡ししました。
診断書には、全検査IQ66や自閉スペクトラム症の特性とともに、日常生活能力の程度が「身のまわりのことも多くの援助が必要」と記載されました。これらを添えて請求したところ、約3か月半で知的障害による請求が認められ、眼の障害と併合されて2級から1級へ改定されました。年金額は障害基礎年金約102万円と眼の障害による障害厚生年金約47万円を合わせた年額約149万円で、同じ年度の金額で比べると年間約30万円の増額です。その後、療育手帳も取得され、グループホームへの入居も決まりました。
すでに他の障害年金を受給している方でも、別の傷病で請求できる可能性があること、成人後に診断を受けた知的障害でも20歳前傷病として整理できることを、改めて確認できた事案です。
軽度知的障害に関するポイント
知的障害は「20歳前傷病」として整理されます
知的障害は、知的機能の障害がおおむね18歳頃までの発達期に現れるとされ、初診日は原則として出生日として扱われるため、20歳前の障害基礎年金の対象となります。この場合、初診日を証明する受診状況等証明書は原則不要で、保険料の納付要件も問われません(20歳前傷病には所得制限があります)。今回のケースでも、成人後に初めて受診して診断を受けましたが、この考え方に基づいて整理しました。
認定日請求と事後重症請求の違い
20歳前傷病では、20歳に達した日が障害認定日となります。その頃の状態を示す診断書が取得できる場合は認定日請求(遡及請求)を検討しますが、当時の受診歴がなく診断書が作成できない場合は、現在の診断書で請求する事後重症請求を選択します。今回は後者に当たり、遡及額は生じない代わりに、請求から結果までの期間を短くできる方針でした。
すでに他の障害年金を受給している場合
障害年金を受給している方が、別の傷病で新たに請求する場合、前後の障害を併せた程度で等級が判断される(併合)ことがあります。今回のケースでは、眼の障害による2級の年金に知的障害が加わり、1級へ改定されました。受給中でも別の傷病で請求できる場合があるため、ご自身で判断せず、一度ご相談いただくことが大切です。
関連動画
知的障害のある方の障害年金の手続きや、就労継続支援B型に通所している場合の考え方について、より詳しく知りたい方は、こちらの動画もあわせてご覧ください。
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