双極性障害(2型)・社交不安障害・広汎性発達障害
障害の状態
- 気分の落ち込みが強く、日常生活全般で家族の声掛けや支援が必要な状態(診断書の日常生活能力の程度は「身のまわりのことも、多くの援助が必要」)
- 食事の準備はほとんど母親に頼り、過食と食欲低下を繰り返して体重が10〜25kgほど増減している
- 入浴や洗顔・ひげ剃りは家族の促しがないと難しく、2日に1回は洗体・洗髪をしない。自室は片付けられず、足の踏み場がない状態
- 会話が続かず集団行動ができない。親しい友人はおらず、初めての店に一人で入ることもできない
- 集中力・注意力の低下があり、就労準備の訓練や職場実習でも作業のミスや遅さ、対人面の困難から就労は困難
相談までの経緯
ご相談者様は5、幼い頃から状況判断が苦手で落ち着きのなさを指摘されることがあり、学齢期には集団競技がうまくできず、いじめを受けた時期もありました。中学・高校と進むにつれて対人場面での緊張が強まり、高校では周囲に話しかけられても黙ってしまい、孤立するようになりました。大学・大学院でも友人ができないまま、社会に出ることへの不安から進学を重ねる形となりました。
卒業後は会社の技術職として就職しましたが、不注意によるミスが続き、相手の話が理解できなかったり、何をすればよいのか分からなくなったりして、入社して間もなく職場で孤立してしまいます。不安感や焦燥感、不眠、食欲低下に悩まされるようになり、精神科のクリニックを受診して社交不安障害と診断されました。これが、今回の請求における初診です。
初診から約1年後、主治医の勧めで医療系の専門職を目指して進学し、養成校を卒業しました。その後は、主治医が関わる分院で社会適応訓練事業を利用して働き始め、主治医の助言や職場の理解も得ながら、10年以上にわたり専門職として勤務を続けました。しかし、主治医が不在となってからは同僚から批判を受けるようになり、通院先の閉院に伴って自宅近くの別のクリニックへ転院しました。
転院後も通院を続ける中で、社交不安障害に加えて双極性障害(2型)や広汎性発達障害(自閉スペクトラム症)の診断名が付くようになりました。仕事ではミスの繰り返しや同僚とのコミュニケーション不全に悩み、転職を重ねました。職場で叱責や業務からの排除、威圧的な言動を受けて体重が10kg減少したこともあり、最後の職場でも利用者との関わりが十分にできないことを批判されて欠勤し、休職を経て退職となりました。
退職後は、働かなければと焦る一方で、過去の職場で受けた叱責や暴言の記憶がよみがえり、人と関わること自体が怖くなりました。主治医から障害者雇用を勧められて精神障害者保健福祉手帳(3級)を取得し、就労支援機関で就労準備支援を受け、短期の職場実習にも参加しましたが、ミスの多さや作業の遅さ、対人関係の困難から就労には至りませんでした。生活面でも、母親との二人暮らしの中で家族の声掛けや支援が欠かせない状態でした。
主治医から障害年金の請求を勧められ、あわせて手続きは社会保険労務士に依頼するようにと助言を受けたことから、ご自身で当事務所を探し、LINEとお電話でご相談くださいました。
対 応
初回のご相談で、症状や生活の状況、これまでの通院先と職歴を伺い、年金の加入記録も確認しました。初診当時は会社員として厚生年金に加入していたことが分かり、保険料の納付要件も満たしていたことから、障害厚生年金(あわせて障害基礎年金)の請求ができると判断しました。
診断名は、社交不安障害、双極性障害(2型)、広汎性発達障害(自閉スペクトラム症)と複数にわたりますが、いずれも最初の医療機関から続く精神症状と対人関係の困難の経過の中にあるものと整理し、1つの傷病として請求する方針としました。申立書も診断名ごとに分けず一続きの経過としてまとめ、初診日は、社交不安障害で最初に受診した医療機関の受診日としました。
ただし、初診の医療機関はカルテが残っておらず、2か所目の医療機関も通院中に閉院していたため、どちらも受診状況等証明書を取得できませんでした。そこで、それぞれ「受診状況等証明書が添付できない申立書」を作成し、転院の際に前医が作成した診療情報提供書(紹介状)に、初診の医療機関を最初に受診した時期が記載されていることを参考資料として添付しました。
請求方法は、初診から1年6か月後の障害認定日当時の診断書が取得できないため、認定日請求ではなく、現在の診断書で請求する事後重症請求としました。その理由は、請求書の理由欄にも「病院が廃業し、カルテが廃棄されていて診断書が作成できない」と記載しています。
診断書は現在の主治医に依頼し、病歴・就労状況等申立書と、日常生活の状況を項目ごとに聞き取った資料を参考として添えました。診断書には、日常生活全般で家族の声掛けや支援を要すること、就労は困難で社会生活への支障が大きいことが記載されました。
請求書の提出後、事後重症請求とした理由の記載を補うよう返戻があり、追記して再提出しました。その後、請求から約3か月で、障害厚生年金2級・障害基礎年金2級の決定となり、年金額は年額約132万円でした。事後重症請求のため遡及分はありません。傷病の整理、初診日の参考資料の活用、事後重症請求の理由の明記を丁寧に積み上げた事例です。
双極性障害・社交不安障害・発達障害に関するポイント
複数の診断名がある場合は「傷病の整理」と「初診日」が重要です
精神疾患や発達障害は、通院の途中で診断名が追加・変更されることが少なくありません。症状や治療が連続している場合は、診断名ごとに別々に扱うのではなく、一連の傷病として請求できるかどうかが個別に検討されます。どの時点を初診日とするかで、当時加入していた年金制度(厚生年金か国民年金か)が決まり、受給できる年金の種類も変わります。今回のケースでは、最初に受診した当時が厚生年金の加入中だったため、障害厚生年金の対象となりました。
初診の医療機関のカルテがない場合でも、初診日を説明する方法があります
初診の医療機関が廃院していたり、カルテが残っていなかったりすると、受診状況等証明書を取得できないことがあります。その場合は、「受診状況等証明書が添付できない申立書」とあわせて、次の医療機関への診療情報提供書(紹介状)、お薬手帳、診察券、第三者の証明など、受診の事実が分かる参考資料で初診日を説明していく方法があります。今回のケースでも、診療情報提供書を参考資料として活用しました。
事後重症請求は、請求した月の翌月分から支給されます
障害認定日当時の診断書を取得できない場合などは、現在の診断書で請求する事後重症請求を検討します。事後重症請求では、年金は請求した月の翌月分から支給されるため、遡及して受け取ることはできません。また、請求は原則として65歳に達する日の前日までに行う必要があります。今回のケースも事後重症請求のため、遡及分のない決定となりました。
関連動画
初診の医療機関が廃院している場合の初診日の証明について、より詳しく知りたい方は、こちらの動画もあわせてご覧ください。
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