支払う休業手当と受け取る助成額の考え方
新型コロナウイルス感染症の影響により雇用調整助成金の活用を検討する場合には、休業手当の支払額を検討していくことが必要になります。
ではまず、休業手当の支払い義務はどうなっているのでしょうか?
休業手当は
「使用者の責に帰すべき事由による休業に対しては、平均賃金の60%以上の手当を支払わなければならない」
とされています。※ここでは休業手当の支払いがそもそも必要かどうかについての説明は行いません。
では、平均賃金とは何でしょうか?
3ヶ月に支払われた賃金の総額÷3ヶ月の暦日数(労働日数ではありません。)です。
※臨時に支払われた賃金や賞与など3か月を超える期間ごとに支払われる賃金は含まれません。
例えば、支給金額90万円(月給30万円)、歴日数90日の場合の平均賃金は
90万円÷90日=1万円
この場合の休業手当1日当たりのの支払い義務は
1万円×60%=6千円
となります。
仮に1ヶ月の所定労働日数が20日で、1ヶ月休業した場合の休業手当の支払い金額は
6千円×20日=12万円
となります。つまり月給ベースで考えると
40%まで下がることになります。
企業としては支払いの金額が少なくなるので、助かりますが、従業員としては生活が大変になってしまいますよね。
ここで、雇用調整助成金の休業手当の考え方は少し違います。
雇用調整助成金では
所定労働日数を計算で使います。つまり、
暦日数で割るわけではないということです。
ですので、休業協定書における休業手当の計算方法でも所定労働日数を使って定めます。
例えば、月ごとに支払う賃金を月額(30万円)÷月の所定労働日数(20日)×60%とした場合の一日当たりの休業手当の支払い義務は
30万円÷20日×60%=9千円
となります。
仮に1ヶ月休業した場合の休業手当の支払い金額は
9千円×20日=18万円
となります。つまり月給ベースで考えると
60%となり、平均賃金(暦日)を取るか、所定労働日数を取るかで
20%も変わってきます。
この所定労働日数を使用した場合の雇用調整助成金の助成額の計算は
前年度の雇用保険被保険者の賃金の合計÷平均人数÷所定労働日数×休業手当率×助成率
となります。
例えば、賃金合計が2,880万円(30万円/月/人)、平均人数が8人、所定労働日数が240日の場合で、休業手当率60%とした、場合は
2,880万円÷8人÷240日=15,000円(会社の平均日額)
15,000円×60%×90%(助成率)=8,100円
となります。
暦日数(365日)を使用していないので、それだけ会社の平均日額は大きくなります。
もし、休業手当の支払い義務は平均賃金なんだから平均賃金を使いたいという場合は、それでも問題ありませんが、この場合は雇用調整助成金の助成額算定の際も「所定労働日数」を「暦日数(365日)」に読み替えることになっていますので、結果的に助成金額も減ることになります。
平均賃金を用いた場合(暦日数365日)は
2,880万円÷8人÷365日=9,863円(会社の平均日額)
9,863円×60%×90%(助成率)=5,362円
となります。
休業手当の支給を検討する際に、平均賃金を使用するメリットは従業員に
支払う金額が少なくなるため、資金繰りへのダメージを抑えることができます。もちろんキャッシュアウトしては最後なので、重要な要素となります。
ただし、所定労働日数を使うメリットもあります。
①一人一人の休業手当の計算が楽
※平均賃金の計算は3ヶ月の実績をもとに計算する必要があるため、計算が非常に手間です。また休業が賃金計算期間を超えるような場合は再度計算が必要になります。平均賃金の計算が間違っていて、法定金額を下回っていた場合には追加の支払いが必要です。
②支払う休業手当の額が大きくなるため、従業員の雇用の維持につながる
※現在の人手不足の中、一度従業員が減ってしまえば、景気が回復してきた際に新たに元の人員を集めることは容易ではありません。
③休業手当の金額が大きくなっても、所定労働日数を使用している分助成金額も大きくなる
※日額上限8,330円
これらの要素をよく検討して、休業手当の金額を検討していく必要があります。
また、雇用調整助成金は従業員への支払い金額に助成率を掛けるわけではないので、助成率が90%であったとしても、高くなったり、低くなったりすることがあります。
例えば前年度実績の会社の平均日額が15,000円の場合で、平均日額が10,000円の従業員を休業させた場合は(休業手当60%、助成率90%)
従業員への支払い額 10,000円×60%=6,000円
助成金額 15,000円×60%×90%=8,100円
となり、助成金額の方が大きくなる場合も出てきます。
このような場合も踏まえ、よく試算を行ったうえで検討を行うとよいでしょう。